Experience to Consumer?新規顧客との接点EtoCとは?(1)

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株式会社シセイラボの武山です。

EtoCは、株式会社シセイラボ(SHISEILABO INC.)が提唱する概念です。Experience to Consumerの略称で、「体験」を顧客に提供するという概念です。「体験」を販売する場合もありますが、基本的には「体験」や「場」の提供を通じて競合がまだ出会えていないターゲット消費者の認知獲得と、競合との差別化を図ることが最大の狙いです。

E to C(以下では、E2Cと表現します)は「体験を通じてブランドや商品を知ってもらうこと」を意味します。

当社が考えるE2Cの起源はポケットティッシュの配布ですが、現在最も効果的なE2Cの形は、リアルなイベントやサロンになっています。今回は、ポケットティッシュがなぜE2Cの起源なのかを解説します。

ポケットティッシュ配布がE2Cの起源

ポケットティッシュは120mm×80mm程で、エリアとビジネスカテゴリによっては最強の広告塔です。

みなさんはポケットティッシュを無料でもらえることにどのような心理的な反応があるでしょうか?また、無料で手渡されたポケットティッシュがカバンの底に眠っていることはありませんか?誰とも知らない人から、無料で手渡された『もの』を捨てずにカバンの中に保管する意味や無意識的な心理とは一体どのようなものでしょうか?

実は、新宿駅などの乗降客数の多い大都市の駅付近で配布されるポケットティッシュの数は新規顧客獲得数と強い正の相関があります。実際に、クライアント企業からの依頼でさまざまな要素を分析して、その相関係数の高さに驚愕したこともあります。

ティッシュというのは革命的な生活必需品で、使わない人がいません。つまり、『ポケットティッシュを配布する』というE2Cアクションは、セグメント不要で、ほぼ100%の反応が期待できるアクションです。

100%の反応は期待できますが、手渡しされたティッシュが選択され、採用されるかどうかは、渡し方や誰が渡すかなどに影響されます。しかし、100%の反応が期待できる、手渡しで受け取ってもらえる対象が目の前を歩いていることは事実です。

さらに、資本主義社会における人の基本的な心理では、『無料』というのは『何らかの違和感』を感じさせる体験です。何らかの違和感は、不信感に似たもので、『確かめる』というアクションを起こします。ここで、120mm×80mmのサイズの小さな広告を確認します。そして、その広告は、『怪しい対象』なので、一言一句、普段以上に丁寧にきちんと読まれる対象になります。

『使うものを渡される』、『無料である』この2つの点で、ポケットティッシュは、『特別な体験』を提供し、ブランド認知を促進する最強なツールとなりえます。

例えば、居酒屋串の蔵(仮)がA5サイズ(148mm × 210mm)のお知らせチラシと、ポケットティッシュの2つの配布物を検討しています。16時からオープンする居酒屋串の蔵(仮)では、ホールスタッフの2名が配布担当に任命されました。高騰する人件費で、チラシと配布者を外注せずに限られた2時間で100枚というミッションがあります。どの時間帯を選ぶかは、ホールスタッフの匙加減ですが、チラシとポケットティッシュには時間の制約という意味でも決定的な違いがあります。

居酒屋串の蔵(仮)の最適解

仮に、私が、新宿駅東口周辺で今日の18時に友人と飲み会を予定しているとしましょう。飲み会を予定していますが、お店の予約はしていません。なぜならその友人とは長い付き合いで、17時に待ち合わせをして、会ってから、会話をして、『今日の好みや気分』から店を話しながら決めたいと考えているからです。

実は、そんなターゲットが新宿には結構います。(これも、クライアントの依頼でアンケートをとったことで理解できたデータです)

さて、そんな状況下で居酒屋串の蔵(仮)の2人のスタッフの最適解とは何でしょうか?

A5サイズチラシ配布を選択した場合

居酒屋串の蔵(仮)の2名のホールスタッフが、A5サイズのチラシを配布する選択をしました。彼らの言い分では、何よりも店の名前が見やすい、メニューの内容も写真もポケットティッシュより充実している。とのこと。

2時間で100枚配布するというミッションは店舗オープンの16時までに完了させる必要があります。

2名のスタッフは、16時のオープンの1時間前15:00には配布を完了させたいと考え、13:00から15:00の2時間を選択しました。

実際に店の前を通り過ぎる人たちにチラシの配布を始めます。しかし、2時間経って渡せたチラシはたったの10枚。全く反応してもらえませんでした。ミッションを達成することも、納得感も得ることができずに、2人は店に戻ります。

なぜ2時間で10枚しか配布することができなかったのでしょうか?

以下のような理由が考えられます。

  • ランチを食べ終えたばかりだった(居酒屋は探していない)
  • ランチができる店を探していた(ランチができる居酒屋を探している)
  • 居酒屋ではランチメニューがなかった(対象外)
  • 居酒屋の外観から好みではなかった(昼間の居酒屋は心理的高揚感を起こさない)
  • 居酒屋の目の前で、チラシを渡される行為自体に『選ばなければいけない』束縛感を与えるなど

A5サイズ(148mm × 210mm)のお知らせチラシは、手に取ってもらって初めて、店の情報を知ることができるという流れです。彼らの言い分では、A5サイズのチラシはポケットティッシュよりも魅力的で、何よりも店の名前も、メニューの内容も、写真もポケットティッシュより充実している。とのことでしたが、手に取ってもらえなければ何も意味をなしません。

ティッシュ配布を選択した場合

そんな、苦い経験をした2人のスタッフは、次の日にポケットティッシュを配布する選択をします。

同じように、2時間で100部配布するというミッションは店舗オープンの16時までに完了させる必要があります。2名のスタッフは、A5チラシ同様に16時のオープンの1時間前15:00には配布を完了させたいと考え、13:00から15:00の2時間を選択しました。

実際に店の前を通り過ぎる人たちや駅から降りる人たちにティッシュの配布を始めます。なんと、たったの1時間で100部のティッシュ配布に成功しました。しかも、反応率はおよそ3人に1人の割合。全く反応してもらえなかった、A5チラシは30人から50人に1人受け取ってもらえるかどうかだったのに、なぜポケットティッシュは1時間でミッションを達成することができたのでしょうか?

以下のような理由が考えられます。

  • ランチを食べ終えたばかりの中で、居酒屋串の蔵(仮)だけはチラシではなくティッシュを配布していた。他のお店はチラシを配布していた。(居酒屋は探していないけどティッシュで鼻をかみたい。)
  • ランチができる店を探していたが、なかなか見つからない。そんな時に、ポケットティッシュを渡された
  • いつか行くであろう、居酒屋の情報は知っておきたいと思っている。
  • 居酒屋の目の前で、渡されるティッシュに商売感がなくて、売り込まれている感じを受けなかった。この店を『選ばなければいけない』束縛感がなかったなど

私は、ポケットティッシュを頼りにその夜、居酒屋串の蔵(仮)で友人とお酒を飲みました。

新規顧客獲得の鉄則

さて、少し脱線した感もありますが、新規顧客獲得の鉄則をE2Cに沿ってまとめてみます。

新規顧客は、実はどこにでもいます。ただし、新規顧客が獲得できないのは、新規顧客にブランドを選んでもらえていない。と考えている人が世の中の大半です。実は多くの場合で、新規顧客獲得を、ブランド側が拒んでいるのです。

ブランド提供者の頭の中と心理状態はこんな感じです。例えば、居酒屋串の蔵(仮)の2名のホールスタッフの頭の中を考えてみます。

  • 私たちの居酒屋を使ってもらいたい。
  • 私たちの居酒屋の料理やお酒のラインナップに自信がある。
  • シズル感のあるチラシの写真が魅力的である。
  • 私たちの居酒屋を使ってもらえれば私たちの給与はいずれ上がるから嬉しい。売上が上がらないと私たちは望む給与がもらえない。
  • メニューを見てもらえれば、客は来るだろう…

そんな頭の中が、『新規顧客獲得を、ブランド側が拒んでいる』と表現します。頭の中で、A5チラシがポケットティッシュよりも魅力的だ!と判断したのですが、チラシの反応率は2%から3%で、新規顧客を獲得できずその日はあまりお客さんが来ませんでした。結果的に、この2名は『新規顧客が獲得できないのは、新規顧客にブランドを選んでもらえていない。』と結論づけてしまいます。

このチラシの配布はE2Cではありません。ただ、頭の中の『自らの欲求』を叶えたいためだけに、チラシを使って望んでいない対象に宣伝している状態です。

一方で、ポケットティッシュを配布する行為は、顧客にとって立派なE2Cにあたります。

消費者の視点で、ポケットティッシュと居酒屋串の蔵(仮)の関係性を整理してみます。

  • 来週、飲み会があるから居酒屋をいくつかリストアップしておこうと考えているが、チラシをもらうまでもない。
  • 居酒屋がたくさんありすぎて、どこを選べば良いかわからない。
  • できれば、美味しい料理やお酒が置いてある店が良い。口コミはネットで調べる。まずはきっかけが欲しい。
  • シズル感のあるチラシはどうでも良い。写真はネットで確認する。
  • 望んでもいないチラシを配布されるのはごめんだ。今はイタリアンか中華でランチができる場所を探している。でも、ポケットティッシュはもらって嬉しい。暑い中、無料で配っている2人も大変だろうから、ティッシュくらいなら受け取ろう。

そんなふうに、受け取ったティッシュがカバンの中に眠っています。ある時、ふと家で見てみるとなかなか良さそうな居酒屋串の蔵(仮)。ネットで調べてみると、口コミも良くて試してみる価値がありそう。

翌週、この消費者は居酒屋串の蔵(仮)を予約しました。立派な新規顧客獲得です。

これが顧客視点のE2Cです。

新規顧客は、実はどこにでもいます。体験を通じて関係性を構築することが、最初のスタートであることがお分かりいただけましたでしょうか?

新規顧客が獲得できないのは、新規顧客にブランドを選んでもらえていない。と考えている人が世の中の大半です。実は多くの場合で、新規顧客獲得をブランド側が拒んでいる。

そんなことをまずはお伝えできればと考えています。

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