なぜ人はブランドを買わないのか?12の理由をめぐる対話

記事を共有する

8月のある日の午後。私はクライアント企業の会議室に呼ばれていました。テーブルに並んだ資料を前に、社長が真剣な表情で口を開きます。

「武山さん、正直に聞かせてください。なぜ、うちのブランドは思うように選ばれないんでしょうか?」

その問いには、どこか切実な響きがありました。これまでのプロセスを把握すれば、広告も出している。SNSも頑張っている。けれど結果が数字に表れない。そんなもどかしさが滲み出ていました。

私は一呼吸おき、静かに答えました。

「社長、それには『理由』があります。人は買うときにワクワクもしますが、同じくらい『買わない理由』を探すものなんです。」

私は、抵抗の概念について説明しました。

一般消費者(ToC)が買わない12の理由

ホワイトボードに向かい、私はマーカーを走らせました。一般消費者が『抵抗』と感じる一般的なリストです。

  • 価格・コスト – 価格が想定より高い、あるいは現実的ではないと一瞬で候補から外れる場合がある
  • リスク – 失敗したら損をするという不安が常にある。最近はニュースでよくない購買体験の情報も見たことがある
  • 習慣 – いつもの商品があるから変えたくないという心理が常にある
  • 情報不足 – そもそもブランドが知られていない、よく知らない場合は選ばれにくい。
  • 比較負け – 競合商品のほうが魅力的に映る場合は選ばれない。
  • 信頼不足 – 企業や商品への信用が足りない場合は選ばれにくい抵抗となる。
  • 利便性 – 購入手段や場所が不便だと敬遠される。オンラインを含めて購入場所やスタッフや店舗にアクセスしやすいか?というのも大事。
  • タイミング – 今すぐ必要性を感じていない場合や、課題を課題と認識していない場合は選ばれない。
  • デザイン – 好みやライフスタイルに合わないと感じられる場合もある。
  • 機能不足 – 欲しい性能や仕様が足りないと嗜好されない。
  • 価値不明 – 価格に対して得られるメリットが見えない場合はそもそも市場で勝負できない。
  • 口コミ影響 – ネガティブな評判に左右される場合は十分な抵抗になる場合がある

「つまり、消費者は“行動しない理由”を無意識に積み重ねてしまうんです」
私の言葉に、社長は「確かに…」とつぶやき、腕を組みました。

法人(ToB)が買わない12の理由

「では、法人向けサービスの場合はどうでしょう?」と私は続けます。

  • コスト負担 – 予算オーバーで決裁が下りない
  • 導入リスク – 担当者が失敗を恐れる
  • 上層部承認 – 意思決定に時間がかかる
  • 実績不足 – 他社導入事例が少ないと信用されない
  • 互換性問題 – 既存システムに適合しない
  • ROI不明 – 投資対効果が見えない
  • サポート不安 – 導入後のフォロー体制が弱い
  • 契約縛り – 長期契約や解約条件がネックになる
  • 競合比較 – より有名・安価な競合が存在する
  • スピード不足 – 納期や実装に遅れがある
  • 社内リソース不足 – 使いこなせる人材がいない
  • ブランド信頼 – 企業としての信用力が弱い

「法人担当者は、“責任を負いたくない”という心理が強いんです。つまり慎重になるんですね」
社長は眉間にシワを寄せながらも、「なるほど、腑に落ちます」と返しました。

買わない理由を“裏返す”

私は赤いマーカーで大きく線を引きました。

「でも、逆に言えば“買わない理由”を一つずつ解消できれば、それが“買う理由”に変わります」

例えば、コスト不安に対して、『分割払いやトライアル提供で軽減する』というのはイメージが湧きやすいですよね?ブランドの信頼不足に対しては『導入事例や顧客の声を打ち出す』というのは多くの企業が取り組んでいるものです。ROI不明に対しては、ToC、ToB向けに数値シミュレーションで可視化するというのはどうでしょう?保険の契約前なんかによく見るやつです。

「なるほど。これまで見てきたLPの各要素はそのような意味合いがあったのか。ToB向けのサービスはどうだろう?」

「上層部承認については、決裁者用の簡易資料を用意するというのが大事です。タイミングについては難しい場合も多いですが、期間限定キャンペーンで後押しするというのは重要なアプローチですよ。人は無意識的な行動と感情で動き、理屈で正当化します。だから不安を消すのも私たちの仕事なんです」
そう伝えると、社長は少し表情を緩めました。

「武山さん、それなら我々もやれる気がしてきましたよ」

ブランドが選ばれないのは、商品やサービスが劣っているからだけではありません。
その裏には常に、「買わない理由」「消費者の抵抗」「企業担当者の抵抗」が潜んでいます。

だからこそ、この場合もマーケティングの本質はシンプルです。
お客様の抵抗を一つずつ丁寧に解消し、安心と納得を積み上げること。

その日の会議室で交わされた社長との対話は、
“ブランドを選ばせるマーケティング”だけではなく、
“買わない理由を消すマーケティング”も成功への近道だと改めて教えてくれました。

記事を共有する