Step1で「ブランドの現在地と市場の把握」を完了した企業やブランドが次に直面する課題は、単に市場で競争するのではなく、新たな市場カテゴリそのものを創造する戦略をいかに立案するかです。
多くのブランドは既存のカテゴリーの中で競合他社との差別化を図ろうとします。しかし、本当の意味で市場をリードし、持続的な成長を実現するには、競合が存在しない、全く新しい市場カテゴリを生み出すことが究極の戦略となります。
SHISEILABOが提案する「独自の新規市場カテゴリ創出」は、7つの段階的ステップを通じて実現されます。本ブログでは、それぞれのステップを詳しく解説し、実践的なアプローチを示します。
第1ステップ
市場浸透したいサービスブランドの機能とベネフィットの特定
ここではまず、「機能」と「ベネフィット」の本質的な違いを理解します。
新規市場カテゴリの創造は、自社ブランドが何をしているか(機能)から、顧客にもたらされる価値(ベネフィット)へシフトすることから始まります。
機能(Function)とは、商品やサービスが持つ具体的な特性や性能のことです。例えば、スマートフォンは「高速インターネット接続ができる」「カメラが搭載されている」「バッテリー持続時間が24時間である」といった機能を持ちます。これらは製品の客観的な特徴であり、製造段階で意図的に設計されるものです。
一方、ベネフィット(Benefit)とは、その機能を使用することで顧客がもたらされる価値や満足感のことを指します。同じスマートフォンの例で言えば、「いつどこからでも大切な人と連絡が取れる」「毎日の思い出を美しく記録できる」「複数のアプリを同時実行して生産性を上げられる」といったものがベネフィットです。
マーケティングの視点では、顧客は機能を求めているのではなく、機能によってもたらされるベネフィットを求めています。ベネフィットは感情的であり、ライフスタイルや心理状態に訴えかけます。
機能のカテゴリ化と整理
市場浸透したいサービスブランドの機能を特定するプロセスです。
第1段階 機能の全列挙
まず、自社サービスが提供するあらゆる機能を網羅的にリストアップします。「当たり前」だと思っている機能も含めて、ここではすべてを書き出してください。例えば、ホテル予約アプリであれば「複数ホテルの比較表示」「リアルタイム在庫確認」「即時予約完了」「キャンセル対応」などが該当します。
第2段階 機能の優先順位付け
全列挙した機能の中から、市場浸透において最も重要な機能を特定します。「顧客が最も重視する機能は何か」「競合他社にはない機能は何か」という観点から評価します。
第3段階 ベネフィットへの変換
各機能がもたらすベネフィットに変換します。「つまり、だから何?」という問いを繰り返すことで、表面的でない深いベネフィットを引き出すことが重要です。
例えば、「複数ホテルの同時比較」という機能に対しては、表層的ベネフィットとして、「ユーザーの選択肢が増える」こと、さらに深いベネフィットとして「限られた時間の中で最良の選択ができる安心感」や「旅の品質と心理的充足度を最大化できる」といったベネフィットを一覧化します。
ベネフィットの3つのカテゴリ
機能的ベネフィット
感情的ベネフィット
社会的ベネフィット
第2ステップ
市場浸透したいサービスブランドが消費者の視点でいつ想起される可能性があるかの想定
カテゴリーエントリーポイント(CEP)の概念
消費者の購買決定プロセスで最も重要なのが、「どのシーン・タイミング・文脈でブランドが想起されるか」です。この想起のきっかけをカテゴリーエントリーポイント(CEP:Category Entry Point)と呼びます。
CEPの理解は、新規市場カテゴリを創造する際の鍵となります。なぜなら、まだ存在しないカテゴリーの中にあって、消費者がいつそのカテゴリーの必要性を感じるか、どのタイミングで自社ブランドを連想するかを設計することが、カテゴリー創造の成否を左右するからです。
消費者の想起タイミングを想定するプロセス
第1段階:使用シーンの詳細な特定
自社サービスが活躍する具体的なシーン・文脈・状況を列挙します。「いつ」「どこで」「どのような状況で」「どのような感情状態で」顧客がそのサービスを必要とするのかを、できるだけ詳細に描き出します。
例えば、ホテル予約サービスであれば下記のような具体的なシーン、文脈、状況が挙げられます。
- 「金曜日の夜、来週の出張が決まったとき」
- 「家族で週末の旅行を計画しているとき」
- 「急な出張で今晩の宿が必要になったとき」
- 「記念日の特別な宿を探しているとき」
第2段階:消費者の心理状態の想定
各シーンにおいて、消費者がどのような心理状態にあるかを想定します。時間的余裕、ストレス度、期待感、不安感など、心理的な要素を詳しく描きます。
第3段階:想起のきっかけとなる触発要因の洗い出し
何が消費者にそのカテゴリーやブランドを想起させるのか、その触発要因を特定します。これは、外的な刺激(広告、友人の勧め、SNS投稿など)もあれば、内的な刺激(思い出、憧憬、不安など)もあります。
想起のパターンマトリックス
複数の使用シーンと想起パターンを整理するフォーマットです。
| 使用シーン | 消費者の心理状態 | 想起のきっかけ | 想起の強さ |
|---|---|---|---|
| 出張直前の急な宿探し | 時間的プレッシャー、不安 | 上司からのメール | 高 |
| 家族旅行の計画段階 | 期待感、楽しみ | SNS上の旅行写真 | 高 |
| 周年記念の宿探し | 特別感の演出欲求 | パートナーとの会話 | 高 |
| 出張ルーチンの予約 | 習慣的、効率志向 | カレンダー確認 | 低~中 |
第3ステップ
第一想起されない前提での第二・第三想起ターゲット市場カテゴリの特定
「第一想起」「第二想起」「第三想起」の戦略的意味
新規市場カテゴリの創造を考える上で、想起階層の概念は非常に重要です。
第一想起(Top of Mind)とは、あるカテゴリーを想起した時に最初に思い浮かぶブランドです。例えば「シューズと言えば?」と聞かれて最初に思い浮かぶブランドが第一想起です。第一想起を獲得するブランドは市場での圧倒的な優位性を持ちます。
しかし、新規市場カテゴリの創造戦略では、敢えて第一想起を狙わないという逆説的な戦略が有効です。なぜなら、第一想起をすでに獲得している競合ブランドの市場から奪取することは極めて困難だからです。
代わりに、第二想起・第三想起の位置から、新たなカテゴリーニーズを生み出すという戦略があります。これは、既存の購買行動パターンに依存せず、新しい購買シーンや使用目的を創造するアプローチです。
第二・第三想起の市場機会
第二想起ターゲット市場の特定
第一想起ブランドでは満たされないニーズや、特定の状況においては第一想起ブランドより価値が高いシーンを特定します。例えば、ビデオカメラ市場でSONYのハンディカムが第一想起である状況下で、GoProは「アクションスポーツの記録用途」で第二想起をターゲットとしました。この差別化された用途のおかげに、やがて「アクションカメラ」という全く新しいカテゴリーを創造できたのです。
同様に、エネルギードリンク市場で栄養ドリンク各社が第一想起を占める中、Red Bullは「パフォーマンス向上」「精神的発散」といったシーンで第二想起をターゲットに、やがて「エナジードリンク」という独立したカテゴリーを確立しました。
第三想起ターゲット市場の拡張
第二想起のポジションから市場を拡張し、第三想起、さらにはカテゴリーの代名詞化を目指します。この過程では、類似した消費者ニーズを持つ複数のシーンを統合し、新たなカテゴリーの思想的な統一性を生み出すことが重要です。
第4ステップ
第二・第三想起されそうな市場カテゴリの第一想起競合をベンチマーク企業として定義
ベンチマーク企業選定の戦略的フレームワーク
新規市場カテゴリの創造には、ターゲット市場において確たるポジションを持つ「ベンチマーク企業」の選定が重要です。ベンチマーク企業とは、自社が新規カテゴリを構築する際に参考にする、その領域における最も強力な競合ブランドを意味します。
ベンチマーク企業選定の基準
ベンチマーク企業を選ぶ際は、以下の基準を総合的に評価します。
- 顧客からの第一想起獲得 そのカテゴリーにおいて、消費者が最初に思い浮かぶブランドであること
- 市場シェアの優位性 市場において確かなシェアを獲得していること
- ブランド認知の広さ 対象セグメントにおいて広く知られていること
- 消費者ロイヤリティの高さ 顧客が継続的に利用し、信頼を寄せていること
- ビジネスモデルの確立性 持続的な成長を実現する仕組みができていること
GoPro事例から学ぶベンチマーク企業の役割 -ビデオカメラのSONYをベンチマーク
GoProがアクションカメラ市場を創造する際、ベンチマーク企業として選定したのはSONYのハンディカムです。一見、競合関係にないように見えますが、「ビデオカメラ市場における第一想起」という観点ではSONYがベンチマークでした。
GoProは、SONYが想定していなかった「アクション・スポーツシーン」という用途で、より小型で堅牢、かつ装着可能というユニークな価値提案を打ち出しました。SONYとは異なるニーズを満たすことで、新規カテゴリを確立したのです。
Red Bull事例から学ぶベンチマーク企業の役割 -栄養ドリンク市場をベンチマーク
Red Bullが参入した当初の栄養ドリンク市場は、日本の栄養ドリンクメーカーが圧倒的な認知を持っていました。Red Bullはこれらをベンチマーク企業として分析し、「栄養補給」という機能的ベネフィットから、「パフォーマンス向上」「精神的な発散」といった感情的・経験的ベネフィットへと軸足をシフトさせました。
ベンチマーク企業の分析フレームワーク
機能面の分析
ベンチマーク企業が提供している機能・特性・スペックを詳しく列挙し、顧客にとってどのような実用的価値を生み出しているかを評価します。
ベネフィット面の分析
機能から派生するベネフィット、特に感情的・社会的ベネフィットがどのように顧客に訴求されているかを理解します。マーケティングコミュニケーション、ブランドイメージ、顧客証言などから、ベンチマーク企業が創出している心理的価値を読み取ります。
ビジネスモデルの分析
顧客獲得の仕組み、チャネル戦略、価格設定、顧客ロイヤリティの維持方法など、ビジネスの構造を分析します。
脆弱性の分析
ベンチマーク企業の弱点、満たされていないニーズ、市場の不満点を特定します。これが新規カテゴリ創造の機会となります。
第5ステップ
ベンチマーク企業から想起される自社ブランドの消費者視点での価値定義
「相対的優位性の構築」という発想
このステップは、新規市場カテゴリ創造の中核です。ベンチマーク企業と比較して、自社ブランドが消費者にとってより価値のある点を明確に定義します。重要なのは、ベンチマーク企業に勝つのではなく、異なる価値軸で消費者に選ばれる理由を構築するということです。
消費者視点での価値比較フレームワーク
第1段階. ベンチマーク企業のストレスポイントの特定
ベンチマーク企業を利用する顧客の中にも、「こういった点が不満である」「こういった場面では不便である」といった不満や課題が存在します。消費者調査、レビュー分析、ソーシャルリスニングを通じてこれらを洗い出します。
第2段階. 自社の独自機能・ベネフィットの抽出
自社ブランドが持つ、ベンチマーク企業にはない(または弱い)機能やベネフィットを列挙します。これは、自社の「不可転の強み」あるいは「独自なポジショニング」です。
第3段階. ストレスポイントと独自強みのマッチング
ベンチマーク企業のストレスポイント(顧客の不満)と、自社の独自強み(顧客の期待を満たす特性)をマッチングさせます。例えば、ストレスポイントとして「従来のビデオカメラは重くて携帯性が悪い」という点に着目します。GoProの場合、自社の独自強みとして「超小型・超軽量で装着可能」が存在するため、消費者のイメージとのマッチング結果として「行動の自由度が最大化される」ということが挙げられます。
第4段階. 具体的な利用シーンでの価値優位性の実証
特定のシーンにおいて、自社ブランドがベンチマーク企業より顧客に提供できる価値が何か、具体的かつ感情的に表現します。
第6ステップ
独自の新規市場カテゴリ名と戦略エクイティの定義
新規カテゴリー命名の重要性
新規市場カテゴリの創造において、そのカテゴリー自体に名前をつけることは、きわめて重要な戦略行為です。なぜなら、命名は単なる分類ではなく、消費者の認識を形作る行為だからです。これらは全て、市場における新しい思想の枠組みを顧客の頭に刻み込むことで、カテゴリー創造に成功しています。
成功したカテゴリー命名の例
- アクションカメラ(GoPro)
- エナジードリンク(Red Bull)
- スマートフォン(Apple)
- シェアリングエコノミー(Airbnb、Uber等)
戦略エクイティとは何か
戦略エクイティ(Strategic Equity)とは、新規カテゴリの本質を表す、シンプルで強力なコンセプトです。ブランドと顧客を結ぶ心理的な架け橋となり、カテゴリーの「なぜそれは存在する必要があるのか」という根本的な理由を示します。
戦略エクイティに含まれる要素
カテゴリー命名と戦略エクイティの設計プロセス
第1段階 カテゴリー本質の言語化
新しいカテゴリーが何を解決し、何を実現するのか、その本質を言語化します。例えば、GoProであれば「自分の視点からの感動の記録」Red Bullであれば「パフォーマンスの物理的最大化、精神的開放の極大化」などです。
第2段階 ネーミング候補の複数創出
複数のネーミング候補を生成します。
- 記憶しやすさがポイント
- 消費者にとっての理解しやすさがポイント
- 国際的な展開可能性がポイント
- 新しさ・創新性がポイント
第3段階 消費者調査による検証
複数のネーミング候補について、ターゲット消費者にテストを実施します。「このカテゴリーは何を意味すると思いますか」「実際に使ってみたいと思いますか」といった質問を通じて、最も訴求力の高い名称を特定します。
第4段階 戦略エクイティの定義
最終的なカテゴリー名が決定したら、その名称の下に集約される戦略エクイティを明確に定義します。これは、企業内外で一貫して使用される、カテゴリーの理念的・戦略的な支柱となります。
例えば、GoPro の場合では、
- カテゴリー名:「アクションカメラ」
- 戦略エクイティ:「自分の目では見えない景色を捉え、その感動を世界とシェアする」
第7ステップ
認知戦略実施による新規市場カテゴリの創出と浸透
新規カテゴリー浸透の3段階
カテゴリーが市場に認知されるには、戦略的なアプローチが必要です。新規カテゴリーの浸透は通常、以下の3つの段階を経ます。
第一段階 カテゴリー認知の確立(Awareness Phase)
ターゲット消費者に「そのようなカテゴリーが存在する」という認知を形成する段階です。この段階では、新しい概念そのものが理解されることが目的です。
- 施策例として、教育的なコンテンツ、カテゴリーの背景や必要性を説明する広告、媒体での特集記事
第二段階 カテゴリー理解の深化(Understanding Phase)
消費者がそのカテゴリーの価値や機能を理解し始める段階です。「なぜこのカテゴリーが自分に必要なのか」「どのような場面で活躍するのか」といった実用的な理解が形成されます。
- 施策例として、使用シーンの可視化、顧客事例の紹介、体験イベント、SNSでのユーザーコンテンツの活用
第三段階 カテゴリーの習慣化(Adoption Phase)
消費者がカテゴリーを日常的に活用する習慣が形成される段階です。この段階に到達すると、カテゴリーは市場に確立され、競合企業の参入も起こり始めます。
- 施策例として、ロイヤリティプログラム、継続利用のための新機能提供、コミュニティ形成
戦略エクイティに基づいた認知戦略の設計
認知戦略は、第6ステップで定義した戦略エクイティから逆算して設計されるべきです。
第1段階 チャネル戦略の設計
新規カテゴリーは、それを最初に受け入れやすいアーリーアダプター層に届く必要があります。彼らはどのチャネルで情報を入手しているのか、どのような接触点が有効か、を特定します。
GoPro の場合、スポーツ愛好家やYouTube投稿者といったアーリーアダプターに、SNS、動画プラットフォーム、スポーツメディアを通じて積極的にアプローチしました。
第2段階 メッセージ開発(メッセージの要素)
戦略エクイティを核とした、シンプルで強力なメッセージを開発します。
- カテゴリーが解決する問題
- もたらされる具体的な利益
- 他の選択肢との明確な違い
- 顧客に対する呼びかけ
第3段階 コンテンツとコミュニティ戦略
新規カテゴリーの浸透には、単なる広告ではなく、顧客が自発的に参加・共有したくなるコンテンツとコミュニティが重要です。
- コンテンツ戦略:ユーザーが実際にカテゴリーを使用している様子を映した動画、使用シーンのストーリー、教育的なハウツーコンテンツ
- コミュニティ戦略:ユーザー間での情報交換、ブランドファンの形成、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の活用
第4段階 アムバサダー・インフルエンサー戦略
新規カテゴリーの理解者・信奉者となるインフルエンサーやアムバサダーを選定し、彼らを通じたカテゴリー浸透を加速させます。これは従来の広告より信頼性が高く、特にアーリーアダプター層への訴求に有効です。
新規カテゴリー創造の成功要件
新規市場カテゴリーの創造を成功させるための基本的なポイントは下記です。
1. 真正性(Authenticity)
カテゴリーが市場で実際に必要とされ、それが消費者の心に共鳴すること
2. 一貫性(Consistency)
カテゴリー命名から、実際のプロダクト、カスタマーエクスペリエンス、ブランドコミュニケーションまで、すべてが戦略エクイティで統一されていること
3. 先発者優位の活用(First-Mover Advantage)
新規カテゴリーを最初に提示することで、消費者の心にそのカテゴリーの「第一想起」として確立されること
4. エコシステムの構築
カテゴリーが成長するにつれて、関連製品・サービス・プラットフォームが生まれ、カテゴリー全体が拡大するエコシステムの形成

実践例新規市場カテゴリー創造の成功事例
事例1 GoPro による「アクションカメラ」カテゴリーの創造
ビデオカメラ市場はSONY、Canon、Panasonicなど大手が支配する飽和市場であり、スマートフォン普及によって衰退産業化していました。
ステップ1-2
GoPro の創業者 Nick Woodman はサーフィンをしており、「自分の視点からの動きを記録したい」というニーズを感じました。ここで「小型化」「装着可能性」「動きの激しい環境での使用」という機能が特定されました。
ステップ3-4
既存のビデオカメラ市場ではなく、「アウトドアスポーツ愛好家」という特定セグメントの「自分の動きを記録したい」というニーズに着目。このシーンでは、従来のハンディカムが第一想起でしたが、用途の限定性から「第二想起のターゲット」となる可能性を見出しました。
ステップ5
ハンディカムとの比較で「圧倒的に小型軽量」「耐久性」「装着の自由度」という相対的優位性を定義。
ステップ6
「アクションカメラ」というカテゴリー名を創出。戦略エクイティは「自分の目では見えない景色を、自分の視点から感動的に記録し、世界とシェアする」。
ステップ7
YouTubeやSNSを中心に、実際のユーザーが撮影した壮観な映像コンテンツを大量に投稿・シェアさせる戦略を展開。結果として、ビデオカメラ市場全体が衰退する中で、GoProはシェア40%を超える成功を収めました。
事例2 Red Bull による「エナジードリンク」カテゴリーの創造
飲料市場では栄養ドリンク、スポーツドリンク、清涼飲料などのカテゴリーが確立されており、Red Bull が参入する余地はないと見なされていました。
ステップ1-2
Red Bull は「栄養補給」ではなく「精神的な覚醒」「パフォーマンスの向上」「冒険心の喚起」という機能とベネフィットに着目。飲用シーンも「疲労回復」ではなく「夜間の活動」「スポーツ直前」「長時間の集中作業」へシフトさせました。
ステップ3-4
栄養ドリンク市場で第一想起を占める競合をベンチマークとしたものの、まったく異なるシーン・感情での想起を狙いました。
ステップ5
ハイエナルギーの比較で「パフォーマンス最大化」「精神的な覚醒」「冒険への誘い」という感情的・経験的ベネフィットの優位性を定義。
ステップ6
「エナジードリンク」というカテゴリー名を創出。「翼を授ける」というシンプルで強力な戦略エクイティを定義。
ステップ7
エクストリームスポーツとのスポンサーシップ、街頭サンプリング、SNSマーケティングを通じた若年層へのアプローチで、新カテゴリーの浸透を加速させました。現在、Red Bull は世界170カ国以上で年間90億本以上を販売する巨大ブランドへと成長しています。
カテゴリー内での競合への対抗
新規市場カテゴリーの創造に成功すると、必然的に競合他社も参入してきます。その際、自社ブランドが「カテゴリーリーダー」の地位を維持するために必要な戦略が異なります。
第一想起の維持
継続的な革新と改善により、消費者の心の中で「アクションカメラと言えばGoPro」「エナジードリンクと言えばRed Bull」というポジションを守り続ける必要があります。
エコシステムの拡張
関連商品・サービスの開発、プラットフォーム化による顧客ロックイン、コミュニティ形成による顧客ロイヤリティの強化も不可欠です。
ブランドの進化と多角化
カテゴリーの成熟とともに、ブランドの展開領域を拡大し、新たな需要層への訴求も重要になります。
まとめ
新規市場カテゴリー創造の戦略的価値
SHISEILABOが提案する7ステップのプロセスは、単なる競合分析や差別化の手法ではなく、市場そのものを創造する戦略思想です。
既存のカテゴリー内での競争に勝つことは、パイを分け合う競争です。しかし、新規カテゴリーの創造は、まったく新しいパイそのものを生み出す行為であり、その先発者は圧倒的な市場優位性を享受できます。
本ステップを実践することで、ブランドは「カテゴリー内での一プレイヤー」から「カテゴリー定義者」へと進化し、長期的で持続的な成長を実現することができるのです。
次のステップへ
Step2での「競合他社の特定とベンチマーク企業選定を通じた独自の新規市場カテゴリ創出」が完了したら、次のStep3では、その新規カテゴリーの中での「ターゲット顧客セグメント化と深化」へと進みます。
ブランドが創造したカテゴリーの中で、さらに細分化された顧客セグメントに対して、より深い価値提案をいかに構築するか。その実践的なアプローチが、次のフェーズとなります。
