生成AIで目指す先。仕事の職種や業種とは?

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8月10日、東京大学メタバース工学部が主催する中学生向けの生成AI講座がありました。YouTubeで配信されたこの生成AI講座には600名弱の中学生が参加されていたようです。

いま、企業の競争力を左右するひとつの要素として、生成AI(Generative AI)の活用意識が急速に拡大しています。2025年を迎えた今、生成AIを使った新たな職種や業務活用が現在進行形で次々と生まれています。この流れは単なる技術革新を超えた、働き方そのものの変革と言えそうです。

当社では10年弱のあいだ企業向けのDX、デジタルトランスフォーメーションを推進しています。肌感覚ではありますが、『DX』に向き合う姿勢と『AI』を見る姿勢には大きな違いがあり、『AI』はすべての企業に等しく期待され、AIを活用した新しい価値を提供する流れが想像されます。

今回は、中学生の関心も高い生成AIについて改めて触れてみたいと思います。

生成AIのひろがりがもたらす職業の変革

変革とは「これまでのやり方や形を、大きく新しく変えること。」

生成AIの導入が企業にもたらす効果は劇的です。日本国内のデータでは、約8割の利用者が業務の時間短縮を実感しており、特に1時間以上の時間短縮を実現した人は41.6%、1時間未満の短縮でも37.2%に達しています。このような効果により、従来の業務から解放された人材がより創造的で戦略的な仕事に従事できるようになっているのです。

生成AI関連の新興職種と年収水準

生成AIの普及に伴い、これまでになかった専門職種が誕生しています。プロンプトエンジニアは、生成AIに最適な指示を与える専門家として急速に注目を集めており、プログラミングスキルがなくても誰でも始められることが特徴的です。

プロンプトエンジニア

「AIに文字や音声などを使って、上手に質問や指示を出す専門家」

AIコンサルタントは企業のAI導入戦略を支援する職種として需要が急増しており、年収800万円から1,200万円程度と高い水準になっています。AIの技術的理解とビジネス課題解決能力の両方が求められるため、その希少性から高収入が期待できます。

AIコンサルタント

「AIをどう使えばもっと便利で役に立つかをアドバイスする人」

データサイエンティストは年収600万円程度、機械学習エンジニアは520万円程度が平均となっており、いずれも日本の平均年収を大幅に上回る水準です。特に、30代で約780万円以上、40代では約1,000万円以上、50代になると約1,200万円以上に達するケースが一般的となっています。

データサイエンティスト

「たくさんの数字や記録の中から、役に立つヒントや答えを見つける人。大量のデータを分析して未来の予想や改善のアイデアを出す専門家。」

機械学習エンジニア

「コンピューターに“経験”を覚えさせて、だんだん賢くする人。AIのコーチやトレーナーのような仕事」

業界別生成AI活用事例

さまざまな情報から一部の業界の企業を例に生成AIの活用事例に触れていきます。創造的なアイデアや常識を疑う姿勢から生成AIの活用方法を無限大のようです。

小売業界

セブンイレブン・ジャパンは、生成AIを商品企画に活用している企業のようです。情報源によれば、生成AIを使うことで、従来の企画期間を10分の1に短縮することに成功。ビジネスでは、プロジェクト期間を短くすることはコストを削減することと同義です。商品企画では、店舗の販売データやSNS上での膨大な消費者の反応を生成AIで分析し、新商品に関する文章や画像を迅速に作成することが可能になっています。

パルコでは、広告制作において画像生成AIを駆使した「HAPPY HOLIDAYSキャンペーン」を展開。実際のモデル撮影を行わずに、グラフィック・ムービー、ナレーション・音楽まで全て生成AIで作成しています。

製造業界

パナソニック コネクトでは、自社向けのAIアシスタントサービス「ConnectAI」を開発し、全社員へ提供しているようです。データによると、導入3ヶ月で26万回の利用があり、1年で全社員合計18.6万時間の労働時間削減を実現しています。

旭鉄鋼は、製造現場の改善活動にChatGPTを活用し、過去事例や注意点をまとめた「横展アイテムリスト」から目的や状況に合った情報を簡単に引き出せるシステムを構築しています。

金融業界

三菱UFJ銀行は生成AIの導入により月22万時間の労働時間削減効果を実現したと報告しています。社内文書のドラフト作成や稟議書作成の効率化により、顧客との対話やサービス提供の質の向上に時間を割けるようになっています。

横浜銀行は「行内ChatGPT」を利用し、各種規程やマニュアルなど行内情報の照会に対応可能なシステムを構築しています。高いセキュリティ基準のもとで管理されており、従業員が高度な業務や新たな業務に集中できる環境を提供しているようです。

IT業界

LINEヤフーでは、エンジニアがGitHub Copilotを活用し、実装したい機能や動作に必要なコードを自動生成することで、1日当たり約2時間の作業時間削減を実現しています。約7000人のエンジニアが新サービスの考案など高付加価値の業務に集中できるようになりました。

生成AI導入費用は?

生成AI人材の育成と企業投資効果&圧倒的なROI(投資対効果)

生成AIは現在のところ基本的に無料でさまざまなモデルを試すことができます。当社は、企業のビジネスカテゴリや規模に応じて最適と思われる導入目的を探しながら、導入支援を実施しています。

生成AIの導入企業では、平均41%のROI(投資対効果)を達成しており、92%の企業がプラスのリターンを報告しています。具体的には、文書作成業務の50%自動化により年間2,500万円のコスト削減効果やカスタマーサポートのチャットボット導入で3,000万円のコスト削減効果など、投資に対する明確な成果が現れているようです。

企業の報告、削減効果などは一つの企業の成果として捉えることもできますが、人間が創造的に取り組む仕事の時間が業界全体で増えていることが重要なポイントになります。

企業の人材育成事例

IBMでは、AI技術を活用して従業員のスキルセットを分析し、個別にカスタマイズされた学習プログラムを提供しています。これにより、より競争力のある企業となり、市場での存在感を高めることに成功しました。

※当社ではIBMのAI研修を積極的に採用しています。

NECは2013年から段階的にAI人材育成に取り組み、2021年時点でグループ全体1,800名の育成に成功しています。長期的視点に立った段階的な育成プログラムの構築により、全社的な取り組みとして組織文化に定着させることができているようです。

AI人材は足りている?足りていない?

結論から日本国内のAI人材は「足りていない」と言われています。

経済産業省の調査によると、『日本のAI人材不足は深刻化しており、2025年までに8.8万人、2030年には12.4万人のAI人材が不足する。』と予測されています。さらに長期的には、2040年までにAI・ロボット人材326万人が不足するとも推計されています。

現在の状況を見ると、「AIに理解のある経営層がいる」と答えた企業は米国の70.5%に対し日本は27.8%、「自社でAI導入を推進できる従業員がいる」と答えた割合も米国の60.9%に比べ日本は11.3%にとどまっています。

人材不足の背景は?

毎日のように生成AIやAIに関するニュースが流れる昨今ですが、日本でAI人材が不足していると思われる主な原因を見てみましょう。

AIをつくる仕事』で人材が不足しているという文脈では、一朝一夕には人材の確保が難しい現実がありそうです。AIをつくるエンジニアには、高度な知識やスキルが求められ、PythonやR、Juliaなどのプログラミング言語の習得には数学的な素養や実装力が必要となります。誰でもできる仕事ではなく、初学者には決して簡単ではありません。

『AIを活用する仕事』で人材が不足しているという文脈では、日本の産業構造が偏りを生み出しているのが現実です。日本国内は、中小企業が企業全体の99.7%を占めています。一方で、資本金や資金力を要する0.3%の大企業はAI人材の獲得競争に有利となります。優秀なAI人材の獲得競争が激しい状況が、日本の中小企業にとって厳しい現実を突きつけています。国内外の大手IT企業や外資系企業による獲得競争が激化し、中小企業が対抗するのは困難な状況です。

そうであれば…『AI人材を社内で育成する』という方向性を考えてみます。

結論からAI人材を社内で育てるのは難しいとされているようです。教育プログラムの整備が不十分で、指導できる高度な人材も不足しており、多くの企業が実行に移せずにいます。

総務省の調査によると、生成AI活用による効果について約75%が「業務効率化や人員不足の解消につながると思う」と回答しています。日本経済新聞の読者調査では、生成AIを仕事で使う人が65%と1年前の44%から大きく増加し、このうち7割が業務効率の向上を実感していることが明らかになりました。

生成AIの導入は間違いなく業務効率化を進めます。当社では生成AIの導入効果で、AI人材のみならず人材不足が解消される方向に進めることが重要と考えています。AI研修やAI導入サポートを含むDXを引き続き推進することで、日本国内の産業構造に向き合いながら、中小企業のデジタル化を進めています。

生成AIを使うアイデア

生成AIと資格取得者を含む専門家のペアがこれまでの雑務的な仕事や人的リソースの必要性を問い直す流れを例として取り上げます。

例えば、生成AIを導入する以前の市場構造調査では、少なくとも、自社データ分析担当者、競合他社調査担当者、人数や年齢などを担当する顧客のデモグラフィック調査者、顧客の行動や態度を調査するサイコグラフィック調査担当者など多岐にわたる領域で人材を必要としていましたが、生成AIをマーケターが活用することで、感覚的に5分の1から2分の1くらいの人的リソースで調査を設計実施完了できる環境がすでに用意されています。

下記は生成AIを具体的に利用する場面の一例です。

  1. 市場構造リサーチ・翻訳・要約・分析
  2. 企画立案・フィードバック
  3. メール・企画書等の文書作成
  4. 設計・デザイン案作成
  5. ソフトウェア開発・デバッグ
  6. チャットボット等による社内知見の検索・業務支援
  7. 文章/画像等のコンテンツ作成
  8. チャットボット等による顧客対応自動化
  9. サービス機能・顧客体験の進化

新たに注目される職種とは?

未来に向けた職種の変革

以下は2025年現在特に注目が集まっている職種とされています。

  • 機械学習エンジニア(平均年収$161,800、求人数16,000件)
  • コンピュータビジョンエンジニア(平均年収$127,500、求人数36,000件)
  • ロボティクスエンジニア(AI重点)(平均年収$119,100)
  • 深層学習スペシャリスト(平均年収$153,000、求人数19,000件)
  • 自然言語処理エンジニア(平均年収$156,000)

人間ならではの価値が重視される

一方で、AIでは代替困難な「創造性」「共感力」「戦略的思考」「複雑な問題解決能力」「ネガティヴケイパビリティ」などを要する職種は今後も重要性を増していきます。対人コミュニケーションやホスピタリティを重視する職業、医療・介護・教育などの分野では、人間の専門性がより一層価値を持つと予測されています。

まとめ

生成AIを活用した仕事は、もはや限定的な技術職だけでなく、あらゆる業界・職種に広がりを見せています。重要なのは、AIに「置き換わる」のではなく、AIと「協働する」新しい働き方を習得することです。

人間が空を飛べなくても、飛行機があるように。人間が3000km泳げなくても、長い航海を船が実現してくれるように。車や新幹線を利用する感覚で、AIを「利用する」という感覚が大切です。

企業にとっては、生成AI導入による圧倒的なROI効果と、深刻なAI人材不足の中で、いかに効果的な人材育成と技術活用を進めるかが競争力の源泉となるでしょう。個人にとっては、この技術革新の波に乗り、自らのキャリアを発展させる絶好の機会と捉えることが重要です。

生成AIは単なるツールを超えて、私たちの働き方そのものを変革する力を持っています。この変化を恐れるのではなく、積極的に活用し、より創造的で価値の高い仕事に集中できる未来を築いていくことが求められています。

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