マーケティングは顧客との信頼関係を築く架け橋で、データと人間理解の両方が不可欠です。これまで、自社を小さく育てながら、スタートアップ、大手代理店、大手IT企業など複数社のマーケティング領域の業務を10年以上行ってきた観点からマーケティングの業務領域についてお伝えしたいと思います。
多くの方がマーケティングと聞くと「SNS活動」「採用活動」「広告を作ること」や「宣伝活動」を思い浮かべるかもしれませんが、実際のマーケティング業務はもっと幅広く、戦略的な要素が強いものです。私自身、数々の失敗と成功を重ねながら学んできたことを、皆さんと共有したいと思います。
マーケティングの6つの主要業務領域
マーケティング活動は下記の6つの要素で整理ができます。
- 戦略立案・市場分析
- ブランド構築・管理
- デジタルマーケティング
- データ分析・効果測定
- プロモーション
- 組織運営・人材育成
一つずつの業務領域については整理してみます。
1. 戦略立案・企画・市場分析
市場環境の変化を読み取り、競合優位性を築くための戦略を策定する最重要業務です。タスク化して、タスク処理する以上に業務領域は膨大で、マーケティングの理解がない相手との交渉や説明は大変な労力です。マーケティング戦略の策定、競合分析、市場調査、SWOT分析を含む戦略的思考による企画立案の段階です。
- 3C分析による市場環境把握(競合他社調査、環境分析と市場調査)
- SWOT分析と競合ベンチマーク
- 顧客ジャーニーマッピング
- マーケティング戦略策定
- KPI設定と目標管理
戦略なきマーケティングは単なる費用の浪費です。市場の変化を敏感に察知し、データに基づいた戦略立案が成功の鍵となります。例えば、競合分析の目的は「自社のポジショニング」を定義するためなのか?「ベンチマーク企業の探索」なのか?という目的の共有も重要です。初期のステップではかけられない予算ではありますが、プロダクトの認知率が安定する時期においては、市場調査には年間予算の10%程度を投資する感覚も重要です。戦略立案は営業、開発、カスタマーサポート全部門の声を聞くことが成功の鍵です。
2. ブランド構築・ブランドマネジメント
企業の顔となるブランドを育て、一貫したメッセージで消費者のイメージとなるブランド・エクイティを育て、市場での認知と信頼を獲得します。企業ブランドや商品ブランドの構築・管理、ブランド価値向上のための施策実施がブランドマネジメントです。
- ブランド・エクイティ定義(戦略エクイティ定義含めたブランドイメージ設計)
- トンマナ・ガイドライン策定
- ブランド体験設計
- 社内ブランド教育・浸透活動
- ブランド戦略策定
- ブランドガイドライン策定
- ブランド認知度向上施策
ブランドは、権威ではなく動詞です。ブランドは社外だけでなく社内への浸透が最重要となります。『このブランドと繋がることでどんないいことがあるのか?』という視点でブランドをつくることが重要になります。社内ポータルの構築や定期的なマーケティング研修などを実施し、全社員がブランドアンバサダーになれる環境作りを心がけています。
また、ブランディングは一朝一夕で終わりません。長期的な継続活動です。一貫性のあるメッセージと体験を通じて、顧客の心に残るブランドを構築することが重要です。
3. デジタルマーケティング
デジタル化が進む現代において、地方都市大都市に関係なく、オンライン顧客接点の最適化は企業ブランドの生命線になります。Web、SNS、メール等デジタルチャネルを活用した顧客接点(タッチポイント)の創出と管理がデジタルマーケティングです。
- オウンドメディア運営
- SNSマーケティング戦略
- マーケティングオートメーション
- SEO/SEM/LLMO最適化
- Webマーケティング
- SNSマーケティング
- コンテンツマーケティング
AIとデジタル化の進展により、この領域の重要性は10年前とは比較になりません。デジタルの活用は、リアルタイムでの効果測定とユーザー別の最適化が可能な点が大きな魅力です。
デジタルマーケティングは比較的数値で成長を図ることができます。実例としては、コンバージョン(CV)の数値を上げるためにこのブランドでは何を施策とするのが良いか?という質問は多くのデジタルマーケティング業務で訪れるテーマです。
コンバージョン率(CVR)が低い(0.5%など)ことに課題を感じ、UI/UX改善やブログ配信などのコンテンツ戦略で5%まで向上させることも可能です。ツールに頼りすぎず、顧客の行動パターンを理解することから始めることが重要です。数値だけでなく定性的なフィードバックも重視しています。
4. データ分析・効果測定
感覚ではなくデータに基づいた意思決定こそが、現代マーケティングの基本です。顧客データの収集・分析による顧客理解の深化とデータドリブンな意思決定を推進しています。
- KPI設計・ダッシュボード構築
- 顧客行動分析・セグメンテーション
- LTV・CAC分析
- A/Bテスト設計・実行
- 顧客データ分析
- 市場調査・リサーチ
- 効果測定・ROI分析
- 予測分析・トレンド把握
データ集計で自動化を推進し過ぎた結果、データ分析チームを立ち上げ当初は失敗の連続でした。今では週次でデータレビューを実施し、迅速な改善サイクルを構築しています。完璧なデータを待つより、80%の精度で素早く動くことが重要です。仮説、検証、改善のサイクル(当社ではOODAを採用)を高速で回すことでコンテンツを、市場に合わせたより良いものとして運用することができます。現代のマーケティングにおいて、データ分析能力は必須のスキルとなっています。
5. プロモーション・広告運用
ブランドをビジネスで運用する場合、ブランドに対する『好き嫌い』に加えて、ブランドに対する認知とブランドにアクセスできる環境構築が重要になります。オンライン・オフライン問わず、一貫したメッセージで顧客との接点を創出し、『使ってもらって価値を感じてもらう』ことを大切にします。
具体的には、広告媒体の選定と運用、キャンペーン企画と実施、販売促進活動を行います。
- プレスリリース発行
- IMC(統合マーケティングコミュニケーション)設計
- メディアプランニング・バイイング
- クリエイティブディレクション
- 効果測定・ROI分
- 広告戦略策定
- 媒体選定・予算配分
- キャンペーン企画・実施
- 効果測定・最適化
当社では、ステップ1の段階からパーセプションフローモデルに月次のKPIを計測できるもの作成し、プロモーション運用をしています。過去に各チャネルがバラバラに動いて効果が分散した経験があり、当社では現在の形に至ります。単発のキャンペーンではなく、顧客の状態を変化させるための顧客のための活動がプロモーションです。顧客とブランドの関係性のストーリーを設計します。顧客との長期的な関係構築を意識することが大切です。
多様化する媒体の中で、最適な組み合わせを見つけることが課題です。常にROIを意識した運用が求められます。
パーセプションフローモデルについては音部大輔氏の『The Art of Marketingマーケティングの技法―パーセプションフロー・モデル全解説』をご参考ください。
6. 組織運営・人材育成・人材マネジメント
マーケティングの成果は、人とチームによって決まります。組織力がすべてです。マーケティング組織の構築・運営、人材育成、部門間連携の推進が最後の業務領域です。マーケターはおそらく、マーケティングに理解のある経営者に会うと嬉しくなりますよね。
- マーケティング組織設計
- 人材採用・育成プログラム
- 部門間連携推進
- 評価制度・キャリアパス設計
- チーム編成・組織設計
- 人材育成・スキル開発
- パフォーマンス管理
人材マネジメントでは、スキルだけでなくマインドセットの共有が重要です。失敗を恐れず挑戦する文化を作ることがチーム力向上の秘訣です。最終的にマーケティングを実行するのは「人」です。チームの成長と組織の発展が、マーケティング成果に直結します。

マーケティングの業務領域は、単なる宣伝活動を遥かに超えた、包括的で戦略的なものです。これらの6つの領域が相互に連携することで、持続的な成長と顧客との長期的な関係構築が実現できます。
私がこれまでの経験で学んだ最も大切なことは、「マーケティングは顧客との信頼関係を築く架け橋」だということです。データと人間理解の両方が不可欠で、失敗を恐れずに小さく早く試行錯誤を繰り返すことが成功への近道です。
現代のマーケティング環境では、AIとマーケティングの融合が加速し、プライバシー重視の時代におけるデータ活用、そしてパーパス経営とブランディングの結合が重要なトレンドとなっています。技術の進歩に追従しつつも、顧客理解の本質を忘れず、部門の壁を越えて全社一丸となった顧客体験を創ることが大切です。
特に若手マーケターの皆さんには、現場主義で実践を重視し、チームメンバーの成長を大切にしてほしいと思います。理論だけでなく実戦での経験を積み重ね、一緒に成長していきましょう。
ご質問やご相談があれば、お気軽にお声がけください。