経営者必見 – 消費者を顧客に変える、マーケティングと営業の本質的な役割

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ビジネスの世界では、「消費者」と「顧客」という言葉は似ているようで、実は大きな違いがあります。消費者は、まだあなたの商品やサービスを購入していない、市場に存在する潜在的な購買者です。一方、顧客は実際に購入を決断し、自社のビジネスと関係を築いた人々を指します。

では、消費者はどのようなプロセスを経て顧客へと変化するのでしょうか。

また、企業はこの変化を促すために何をすべきなのでしょうか。

本記事では、消費者の購買心理、企業が取るべき戦略的アプローチ、そして営業とマーケティングの本質的な役割について、顧客視点から解説してみます。

『必要性』と『買う理由』

消費者が顧客に変わる瞬間

消費者が商品やサービスを購入するまでには、複数の心理的段階を経ます。マーケティングの父と呼ばれるフィリップ・コトラー氏が提唱した購買意思決定プロセスでは、以下の5つの段階が示されています。

STEP

問題認識

消費者が何らかの問題やニーズを認識する

STEP

情報探索

問題解決につながる情報を探索する

STEP

代替品評価

複数の選択肢を比較・評価する

STEP

購買決定

最終的に商品・サービスを購入する

STEP

購買後の行動

購入した商品・サービスの価値や体験を評価する

この購買意思決定プロセスにおいて、消費者が顧客へと変化する決定的な瞬間は、「必要性を感じ、買う理由が明確になったとき」です。

必要性と買う理由の違い

必要性とは、消費者が「これがないと困る」「これがあれば問題が解決する」と感じる、商品・サービスの存在価値そのものです。一方、買う理由とは、数ある選択肢の中から「なぜこの商品を選ぶのか」という購入の正当化要因を指します。

例えば、ビール業界のクアーズでは缶の内側のフィルムを青くするという工夫を施しました。この青いフィルムは「爽快感あふれる冷たいビール」というイメージと結びつき、消費者に「買う理由」を提供したのです。結果として、そのブランドはわずか1年で売上を100億円以上増加させることに成功しました。

クアーズの事例が示すように、消費者は購買時に無意識のうちに「なぜこれを買うのか」という理由を探しています。企業がこの心理を理解し、明確な「買う理由」を提示することで、消費者は購買への心理的ハードルを下げ、顧客へと変化するのです。

『必要性』と『買う理由』の伝え方

企業視点での戦略

企業にとって最も重要なのは、商品やサービスの「必要性」と「買う理由」を消費者にどのように伝えるかという点です。ただ商品の特徴を並べるだけでは不十分です。消費者の視点に立ち、彼らが抱える課題やニーズを深く理解した上で、自社の商品・サービスがどのように問題を解決できるのかを明確に示す必要があります。

価値提案とは、「必要性」と「買う理由」を消費者とコミュニケーションすることに他なりません。

マーケティングにおける「価値提案」とは、単なる機能説明ではなく、顧客が得られる具体的な便益(ベネフィット)を伝えることです。例えば、「当社の掃除機は吸引力が高い」という特徴よりも、「吸引力が変わらないから、いつでも清潔な住環境を保てる」というベネフィットの方が、消費者の心に響きます。

『買う理由』の決定打

独自性の創出『誰が、なぜ提供するのか』

さらに重要なのは、「誰がそのサービスや商品を提供しているか」「なぜ私たちが提供するのか」という独自性を明確にすることです。これはマーケティング用語でUSP(Unique Selling Proposition:独自の売り提案)と呼ばれます。

USPを明確にするための3つの基本的なポイントを整理します。

1つ目のポイントは、「広告は顧客への提案であること」です。自社だからこそ提供できる価値を提案できているかどうかを評価します。2つ目は、そもそも「提案に独自性があること」が重要になります。できれば他社に真似ができない、自社が提供する意味を見つけることです。そして、最後のポイントは「提案が強力であること」です。当たり前のようですが、顧客の心を強く揺さぶるインパクトのある提案であることが重要になります。

例えば、ASKULは「今すぐ必要な事務用品を翌日には届ける」という独自の価値提案により、便利な事務用品通販としての地位を確立しました。ダイソンは「吸引力が変わらないただ一つの掃除機」というUSPで、掃除機市場における独自のポジションを築いています。

企業の存在意義、すなわちパーパス(Purpose)を明確にすることも、現代のブランディング戦略において重要です。パーパスとは、企業がなぜ存在するのか、どんな価値を提供するのか、どんな社会を目指すのかという根本的な理念や目的を言語化したものです。

例えば、味の素株式会社は「アミノサイエンスで人・社会・地球のWell-beingに貢献する」というパーパスを掲げています。このように、社会的な意義を含んだ存在理由を示すことで、消費者や社会からの共感と信頼を獲得できるのです。

これらは立派に「購入する理由」「選択する動機」になり得ます。

営業は「クライアント担当者」

消費者視点で見る営業とマーケティングの役割

消費者の視点に立つと、営業担当者は単なる「売り込みをする人」ではなく、「クライアント担当者」として認識されます。つまり、消費者が抱える課題を理解し、最適なソリューションを提案し、購入後もサポートを続けるパートナーとしての役割です。

営業の本質は、「お客様と共にプロセスを前に進める活動」です。目の前の顧客一人ひとりと対話し、彼らのニーズに応じた提案を行い、最終的に契約を結ぶことが営業の主な業務となります。営業は短期的な成果を重視し、個々の顧客との商談や契約を通じて具体的な売上を生み出します。

マーケティングは「必要性・買う理由・存在理由」を伝えるポジション

一方、マーケティングは市場全体を見据え、不特定多数の消費者に対して、商品やサービスの認知度を高め、関心を引き出す役割を担います。消費者視点では、「マーケティング」という言葉は全く重要ではなく、一方でマーケティングコミュニケーションが最も重要な活動になります。

マーケティングコミュニケーションでは、消費者にメッセージを伝え、消費者に理解してもらうことがゴールです。何を理解してもらうかという視点で3つの重要なポイントを整理します。

1つ目は「必要性」です。消費者に「この商品・サービスがなぜ私に必要なのか」をはっきりと理解してもらうことができれば、選択肢の候補となり得ます。

2つ目は「買う理由」です。消費者が「私はなぜこの商品を選ぶべきなのか」という疑問に答えるコミュニケーションで消費者の理解が得られれば、他社商品や代替品との大きな差別化ポイントが生まれます。

3つ目は、「自社の存在理由」です。自社の存在理由を伝えるマーケティングコミュニケーションでは、「私たちは誰で、なぜこれを提供しているのか」というパーパスを共有することが重要になります。

マーケティングは、消費者が購買プロセスの初期段階(認知・興味・情報探索)にいる時点で接点を持ち、適切な情報を提供することで、購買意欲を高めていきます。そして、購買意欲が高まったリードを営業部門に引き渡すのです。

営業とマーケティングの連携が生み出す価値

営業とマーケティングは異なる役割を持ちますが、両者が連携することで、消費者を顧客に変える力は飛躍的に高まります。

マーケティングが「売れる仕組み」を作り、営業が「売る行為」を実行します。この役割分担を明確にし、情報を共有しながら協力することで、効率的かつ効果的な顧客獲得が実現します。

例えば、マーケティングが顧客の属性や行動を分析し、その情報をもとに営業が個別アプローチを展開することで、より精度の高い提案が可能になります。また、営業が現場で得た顧客の声をマーケティングにフィードバックすることで、より効果的なコンテンツやキャンペーンを設計できます。

近年では、MA(マーケティングオートメーション)やSales ForceなどのSFA(営業支援システム)を連携させることで、顧客情報や案件情報をマーケティング担当者と営業担当者の間でリアルタイムに共有・管理することが一般的になってきています。

消費者を顧客に変えるために

今日からできることは?

消費者が顧客に変わる瞬間は、「必要性を感じ、買う理由が明確になったとき」です。

この視点で、自社の広告やプロモーション活動やSNS運用、公式サイトやLPのあり方を見直してみてはいかがでしょうか?プロモーション活動は、「マーケティングコミュニケーション」と捉えることで、手法に捉われることなく効率的で結果を生み出しやすい宣伝活動が可能になります。

必要性の明確化

消費者が抱える課題やニーズを深く理解し、自社の商品・サービスがどのように問題を解決するかを示す

買う理由の提示

競合との差別化ポイントを明確にし、「なぜこれを選ぶべきか」を具体的に伝える

独自性の創出

「誰が」「なぜ」提供するのかという企業の存在意義を示し、消費者の共感を得る

そして、これらのメッセージを消費者に届ける役割を担うのが、マーケティングと営業です。マーケティングは市場全体に対して必要性・買う理由・存在理由を伝え、消費者の関心を高めます。営業はクライアント担当者として、個々の消費者に寄り添い、最適な提案を通じて購買を後押しします。

両者が連携し、それぞれの強みを活かすことで、消費者は安心して購買を決断し、顧客へと変化していくのです。これこそが、顧客視点に立ったマーケティングと営業の本質的な役割と考えています。

次回はマーケティングと営業の活動を月次で管理するパーセプションフローモデルの活用についてお伝えできればと思います。

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