iOS Androidモバイルアプリ自社導入で大切なこと

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モバイルアプリ開発で大切なこと

当社ではモバイルアプリ開発の現場で30〜40のプロジェクトに携わってきた経験から、多くのアプリ開発者が見落としがちな重要な視点について述べたいと思います。モバイルアプリ開発には、従来の商品・サービス開発とは根本的に異なる特性があります。この特性を理解し、適切にアプローチすることが、成功するアプリ開発の鍵となるのです。

利用タイミングの明確な定義が不可欠

モバイルアプリ開発の独特な特性

モバイルアプリ開発では、従来の商品やサービス開発で重視される「誰に何を価値とするか?」という基本的な問いに加えて、「いつアプリを起動するか?いつ使われるか?」という利用シーンの明確化が決定的に重要です

この「いつ」の要素は、モバイルアプリの特性から生まれる独特なニーズです。ユーザーは日常生活の中で特定のタイミングでアプリを開くため、そのタイミングを的確に捉えることで、アプリの価値を最大化できます。

例えば、健康管理アプリの場合、「朝起きた時」「食事前」「就寝前」など、健康を意識するタイミングでの利用を想定した設計が重要になります。フィンテックアプリであれば、「支払い時」「資産確認時」「投資判断時」など、金融活動のタイミングが利用の鍵となるのです。

プッシュ通知とアプリ起動の関係性

モバイルアプリの大きな特徴の一つは、プッシュ通知機能です。この機能により、ユーザーがアプリを起動していない状態でも適切なタイミングでアプローチできます。成功しているアプリの多くは、ユーザーの生活リズムや行動パターンを分析し、最適なタイミングでプッシュ通知を配信することで利用頻度を高めています

価値提供の根本原理

「誰にどんな価値をなぜ提供するか?」の徹底的な定義

モバイルアプリでも最も重要なことは、従来の商品・サービスと同様に「誰にどんな価値をなぜ提供するか?」を明確に定義することです。この基本原理は変わりませんが、モバイルアプリの場合は、より多くの動機(心理的欲求)で利用される形を目指すことが重要になります。

理想的なアプリは、利用者を限定せずに幅広いユーザーの様々な心理的欲求を満たすものです。例えば、一つのアプリで「効率性を求める人」「エンターテインメントを求める人」「学習意欲のある人」など、複数の動機を持つユーザーに価値を提供できる設計が望ましいのです。

UI(ユーザーインターフェース)とUX(ユーザー体験)の最適化

多様なユーザーの動機に応えるためには、UI(ユーザーインターフェース)とUX(操作性を含めたユーザー体験)の綿密な設計が不可欠です。

UIは視覚的な要素だけでなく、ユーザーとアプリとの接点全体を考慮する必要があります。一方、UXはアプリを通じて得られる体験全体を指し、使いやすさ、楽しさ、満足感などの感情的な要素も含みます。

特にモバイルアプリでは、画面サイズの制約がある中で直感的な操作を実現する必要があり、シンプルで分かりやすいデザインが求められます。

機能ごとの提供価値マッピング

アプリの大まかな概要とミッションステートメントが固まった後は、アプリに実装する機能ごとに提供価値をマッピングすることが重要です。

各機能が「なぜ必要なのか」「どのような価値を提供するのか」「どのユーザーセグメントに向けられているのか」を明確にすることで、機能間の整合性を保ち、一貫したユーザー体験を提供できます。

例えば、ECアプリの場合はこんな感じです。

  • 商品検索機能:効率性を求めるユーザーに「時間短縮」の価値を提供
  • レビュー機能:安心感を求めるユーザーに「信頼性」の価値を提供
  • お気に入り機能:利便性を求めるユーザーに「再訪しやすさ」の価値を提供

このように、機能単位で価値を明確化することで、開発の優先順位付けも行いやすくなります。

アプリ価値の市場的定義

企業価値か顧客価値かの明確化

アプリ自体の価値をどのように定義するかも重要な判断要素です。企業が喜ぶアプリなのか、一般ユーザーが喜ぶアプリなのかを明確に区別する必要があります。

企業向け(B2B)アプリの場合は、業務効率化、コスト削減、売上向上など企業の経営指標に直結する価値が重視されます。一方、一般ユーザー向け(B2C)アプリでは、利便性、エンターテインメント性、コミュニケーション促進など、個人の生活の質向上に関わる価値が重要になります。

ポジティブシーンでの活用可能性

アプリがポジティブなシーンで活用されるかどうかも重要な考慮点です。ユーザーが前向きな気持ちで利用できるアプリは、継続利用率が高く、口コミによる拡散効果も期待できます。

例えば学習アプリでは「成長実感というポジティブな体験」、フィットネスアプリであれば、「健康改善というポジティブな成果」、コミュニケーションアプリでは「人とのつながりというポジティブな感情」….

これらのアプリは、ユーザーにとって価値ある時間を提供し、生活の質を向上させる役割を果たしています。

日本のEdTechとFinTech市場規模比較(2024年〜2027年予測)

市場規模の現実的な評価

アプリ開発において市場選択は極めて重要です。例えば、EdTech領域で勝負するよりもFintech業界で勝負する方が市場規模ははるかに大きくなります

日本国内の市場規模を比較すると下記のような定量データを把握できます。

  • EdTech市場:2024年約2,674億円 → 2027年約3,625億円(予測)
  • FinTech市場:約5〜10倍の規模(推定12,000億円〜18,000億円)

この市場規模の違いは、アプリ開発の投資対効果に大きく影響します。大きな市場であれば、同じ品質のアプリでもより多くのユーザー獲得機会があり、収益化の可能性も高くなるのです。

ただし、市場規模だけでなく競合の激しさ、参入障壁、自社の強みとの適合性も総合的に判断する必要があります。

成功事例から学ぶ価値提供の実践

複合的価値提供の成功例

成功しているモバイルアプリの多くは、単一の価値ではなく複合的な価値を提供しています。

Pokémon Sleepの事例では、ゲーム要素とヘルスケア要素を組み合わせることで、「エンターテインメント」と「健康管理」という異なる動機を持つユーザーに同時に価値を提供しています。睡眠という社会課題に着目し、それをゲーム化することで新しい体験価値を創出した成功例です。

日常生活への深い統合

メルカリコカ・コーラのCoke Onなどの成功事例から分かることは、アプリが日常生活に深く統合されているほど利用頻度が高くなるということです。

Coke Onの場合、「ドリンク購入」という日常行為と「歩数計測」という健康意識を組み合わせ、複数の生活シーンでアプリ利用の動機を提供しています。これにより、単発的な利用ではなく、継続的な利用を促進する仕組みを構築しています。

Seven key elements that constitute user experience (UX) with explanations in Japanese on usability, findability, usefulness, desirability, value, credibility, and accessibility

開発プロセスにおける価値設計

早期の価値検証

モバイルアプリ開発では、開発の初期段階で価値仮説を設定し、プロトタイプを通じて検証することが重要です。リリース後に価値提供に問題があることが判明すれば、大きな手戻りが発生します

効果的なアプローチを簡単にご紹介します。これらの反復プロセスを通じて、真にユーザーが求める価値を特定し、それを的確に提供するアプリを開発できます。

  1. ターゲットユーザーの明確化
  2. 提供価値の仮説設定
  3. MVP(最小実行可能プロダクト)の開発
  4. ユーザーテストによる検証
  5. フィードバックに基づく改善

継続改善の仕組み

成功するモバイルアプリは、リリース後も継続的に価値提供を改善しています。ユーザーの行動データ分析、フィードバック収集、A/Bテストなどを通じて、提供価値を継続的にブラッシュアップする仕組みが重要です。

特に、プッシュ通知の最適化、UI/UXの改善、新機能の追加などは、ユーザーの変化するニーズに合わせて継続的に行う必要があります。当社ではモバイルアプリ開発に日本の伝統的なデザイン思想から「新機能の余白」などのプロジェクトも創生しています。

まとめ

モバイルアプリ開発で最も大切なことは、従来の商品・サービス開発の基本である「誰にどんな価値をなぜ提供するか」の明確化に加えて、「いつ利用されるか」という利用シーンの具体化です。

そして、より多くの動機を持つユーザーに価値を提供できるUI/UXを設計し、各機能の提供価値を明確にマッピングすることが成功への道筋となります。さらに、市場規模を現実的に評価し、企業価値と顧客価値のバランスを取りながら、ポジティブなユーザー体験を提供することが、長期的に愛されるアプリを生み出すのです。

2015年から2025年の約10年間で30〜40のアプリ開発プロジェクトを通じて得た最大の学びは、技術的な実装よりも、ユーザーの日常に自然に溶け込み、真の価値を提供できるかどうかがアプリの成否を決定するということです。この視点を常に持ち続けることが、モバイルアプリ開発会社にとって最も重要なスキルなのです。

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