はじめに
Step1で市場の現在地を把握し、Step2で新規カテゴリを創造し、Step3でターゲットと戦略エクイティを定義しました。これまでの戦略立案プロセスで、ブランドの「何を」「誰に」「どうやって」かは決まっています。
しかし、いくら優れた戦略があっても、それを実行する組織体制が整っていなければ、戦略は絵に描いた餅に終わります。また、経営層から営業現場までの全員が同じコンセプトを理解していなければ、一貫性のあるマーケティング活動は実現できません。
今回のブログ(Step4)では、組織設計とマーケティングコンセプトの定義という2つの側面から、戦略を実行可能にするための基盤を構築します。これは、単なる「机上の空論」を「現場での実行力」に変える、極めて重要なステップなのです。
Step4の目的
戦略を実行力に変えることが今回のブログのテーマです。
ステップ実施の核となる3つの目標
①組織体制をどう整えるか
ブランド戦略の実現には、ブランド戦略部門だけでなく、デジタルマーケティング、営業、カスタマーサクセス、マーケティングオペレーション、分析チームなど、複数の機能が必要です。これらの部門をどう構成し、誰が何を責任として担うのかを明確にしない限り、戦略は実行されません。
②マーケティングコンセプトをどう定義するか
経営層から営業現場、パートナー企業に至るまで、全員が同じ理解で同じ方向を向くことが、マーケティングの成功を決めます。そのための羅針盤が「マーケティングコンセプト」です。これは、ブランドの存在意義、提供価値、提供方法を統合した短い言葉で表現され、すべての施策の指針となるものです。
③役割分担と一貫した考え方をセットで設計する
組織体制とコンセプトは、不可分の関係にあります。組織体制がコンセプトを実現できるか、逆にコンセプトが組織内で正しく理解・共有されているかを常に確認し、両者を整合させることが必要です。
戦略の実行力と伝達力を高める
最終的なStep4の狙いは、次の2つの力を高めることにあります。
- 実行力(Execution Power)ターゲット顧客に正しく価値を届けるための組織的行動力
- 伝達力(Communication Power)ブランドコンセプトが社内外の全ステークホルダーに正確に理解される力
これらが兼ね備わることで、Step3で定義した戦略エクイティが、初めて市場で実現可能になるのです。
組織設計と役割定義
第1章
組織設計の基本原則
効果的なマーケティング組織を設計するには、3つの基本原則を抑えておく必要があります。
原則1 戦略から組織を設計する(Strategy-First Design)
多くの企業では、既存の組織体制の中でマーケティング戦略を考えています。しかし本来は逆です。Step3で定義した戦略エクイティを実現するために、どのような組織体制が必要かを考えるべきです。
例えば、戦略エクイティが「デジタルネイティブ世代への直接的なコミュニティ形成」であれば、ソーシャルメディア、コンテンツ制作、コミュニティ運営に強い人材を必要とします。一方、「高級老舗ブランドとしての信頼構築」であれば、ブランド戦略、プレスやインフルエンサー関係、VIPカスタマーマネジメントの機能が必要になります。
原則2 顧客タッチポイントを中心に組織を構成する(Customer-Centric Organization)
従来の企業では、マーケティング、営業、カスタマーサクセスが分断されていることが多いです。しかし顧客の視点では、これらは一つの連続した体験です。そのため、組織も「顧客の認知段階」「購買段階」「ロイヤリティ段階」といった顧客ジャーニーを中心に設計することが効果的です。
原則3 スケーラビリティと柔軟性を確保する(Scalability & Agility)
市場環境は急速に変化します。組織は、ビジネスの成長に伴うスケーリングに対応できる構造を持ちながらも、戦術的な変更には柔軟に対応できる設計が必要です。階層を深くしすぎず、意思決定プロセスを明確にすることが重要です。
マーケティング組織の主要な機能モデル
シセイラボが提案する、統合的なマーケティング組織には、次の4つの主要な機能が必要です。
1. ブランド戦略・インサイト機能
ブランドの方向性を定義し、市場・顧客インサイトを組織全体に提供する。すべてのマーケティング活動の指針となるブランドガイドラインを策定・運用する。
主要な責任範囲
- ブランドポジショニングの定義・更新
- 市場調査・競合分析
- 顧客インサイト研究
- ブランドガイドライン策定・管理
- ブランドヘルス測定・改善施策立案
主要な役職
- ブランドディレクター:ブランド全体戦略の責任
- マーケットリサーチマネージャー:調査・分析の統括
- インサイト分析スペシャリスト:深い顧客理解の構築
他部門との連携
- デジタル・コンテンツ部門への戦略伝達
- 営業部門へのターゲット定義・メッセージング共有
- 製品開発部門への顧客ニーズ提供
2. デジタル・コンテンツマーケティング機能
ブランド戦略をデジタルチャネルとコンテンツを通じて実現する。SNS、オウンドメディア、デジタル広告、メールマーケティングなどを統合的に運用し、ターゲット顧客とのエンゲージメントを創出する。
主要な責任範囲
- デジタル戦略の企画・実行
- SNS運用(複数プラットフォーム)
- オウンドメディア・ブログ運営
- デジタル広告企画・運用(SEM、DSP、SNS広告など)
- メールマーケティング
- コンテンツカレンダー管理
主要な役職
- デジタルマーケティングマネージャー:デジタル戦略全体の統括
- SNS・コミュニティマネージャー:SNS運用とコミュニティ形成
- コンテンツクリエーター:記事、動画、ビジュアルコンテンツ制作
- SEO/SEM スペシャリスト:検索経由の流入最適化
他部門との連携
- ブランド戦略部門からのメッセージ・ガイドラインの受取
- 営業部門への見込み客情報提供
- カスタマーサクセス部門への既顧客エンゲージメント施策
3. カスタマーエクスペリエンス・営業連携機能
顧客のジャーニー全体を設計し、営業との連携強化、顧客接点の最適化を行う。購買前の見込み客育成から、購買後のロイヤリティ構築まで、シームレスな顧客体験を実現する。
主要な責任範囲
- 顧客ジャーニーマップの策定・管理
- セールスイネーブルメント(営業支援施策)
- リード育成(リードナーチャリング)プログラム
- 顧客体験の最適化・改善施策
- ロイヤリティプログラムの企画・運営
- カスタマーフィードバック収集・分析
主要な役職
- カスタマージャーニーマネージャー:CX戦略全体の責任
- セールスイネーブルメントマネージャー:営業支援施策の実行
- カスタマーサクセスマネージャー:既顧客のロイヤリティ向上
他部門との連携
- 営業部門とのシームレスな連携(リード定義、育成、引き継ぎ)
- ブランド戦略部門からのターゲット・メッセージング
- オペレーション部門へのプログラム実行支援
4. マーケティングオペレーション・分析機能
マーケティング施策の実行を支える基盤となる、データ・ツール・プロセスを管理。すべての施策のパフォーマンスを測定し、改善提言を行う。
主要な責任範囲
- マーケティングスタック(各種ツール)の管理・最適化
- マーケティングオートメーション(MA)運用
- データ収集・管理・分析
- KPI定義・ダッシュボード作成
- 施策効果測定・レポーティング
- プロセス改善・効率化
- 予算管理・ROI分析
主要な役職
- マーケティングオペレーションマネージャー:オペレーション全体の統括
- マーケティングアナリスト:データ分析・レポーティング
- MarTech スペシャリスト:マーケティング技術の導入・運用
他部門との連携
- すべての部門へのデータ・インサイト提供
- 経営層への定期レポーティング
- IT部門・データ分析部門との連携
組織設計の実装例
実際の組織規模は企業や事業段階によって異なります。スタートアップと成熟企業では異なる組織構成が必要です。
小規模ビジネス(従業員50名以下)での組織
この段階では、複数機能を1人が担当することが多いです。例えば、マーケティングマネージャー1名がブランド戦略、デジタル運用、営業支援を兼務することもあります。重要なのは、4つの機能がすべてカバーされていることであり、組織図よりも役割の明確化と責任範囲の定義です。
成長期ビジネス(従業員100~300名)での組織
4つの機能がそれぞれ最低2~3名のチームを構成するようになります。この時点で、専任のマーケティング責任者(例:CMO)を置き、各機能のマネージャーが責任を持つ体制が効果的です。
成熟企業(従業員300名以上)での組織
各機能が独立した部門となり、さらに細分化されます。ただし、最も注意すべき点は、部門の細分化が「サイロ化(機能の分断)」につながらないことです。統合的なマーケティングを実現するため、部門間の連携を意識的に設計する必要があります。
役割分担と意思決定プロセスの明確化
組織体制を定めても、意思決定のプロセスが曖昧であれば、実行は遅くなります。以下の要素を明確にすることが重要です。
意思決定マトリックス(RACI)の設定
各施策や判断について、以下の役割を定義します
- R(Responsible):実行責任者
- A(Accountable):最終責任者
- C(Consulted):相談される者
- I(Informed):報告される者
例えば、新規キャンペーンの企画では、デジタルマーケティングマネージャーがR(実行)、ブランドディレクターがA(最終責任)、営業部門と分析部門がC(相談)という具合です。
意思決定階層の設定
施策の予算規模、重要度に応じて、誰が最終判断を行うかを定めます。例えば
- 月間予算50万円以下:各チームマネージャー判断
- 月間予算50~200万円:マーケティング部門長判断
- 月間予算200万円以上:CMO+経営層判断
このプロセスを明確にすることで、意思決定の速度と質の両立が実現できます。
第2章 マーケティングコンセプトの策定
マーケティングコンセプトとは何か
マーケティングコンセプトとは、「ブランドの存在意義(Why)」「提供価値(What)」「提供方法(How)」を統合した、すべてのマーケティング施策の指針となる短い言葉や表現のこと。
経営層から営業現場、パートナー企業に至るまで、全員が同じ理解で一貫した行動を取るための羅針盤です。
マーケティング活動は、ブランディング、広告、営業、カスタマーサクセスなど、多くの部門にまたがります。これらが分散しやすいものを「一つの目的」「一つのメッセージ」で統合するのが、マーケティングコンセプトの役割です。
例えば、以下のような分散を防ぎます
- ブランディングチームが「プレミアム」を強調し、営業が「低価格」を訴求する
- デジタル施策は若年層向けだが、営業は高齢層向けのメッセージをしている
- 今月のキャンペーンと来月のキャンペーンが、全く異なるコンセプトになっている
マーケティングコンセプト策定の3ステップ
Step 1 Why(存在意義)の定義
What is Why?
「Why」とは、ブランドやサービスが、なぜ市場に存在するのか、顧客の人生にどのような意義を持つのかを問い直す問いです。
シセイラボが重視する「N=1顧客中心思考」では、個々の顧客にとって、このブランド・サービスの存在がどのような役割を果たすのかを問います。
Why定義の進め方
- 段階1:ビジョンレベルでの問い直し
- 私たちのブランド・サービスが、世界や市場に対して解決したい課題は何か?
- その先にある、お客さんの人生や社会への貢献は?
- 段階2:顧客レベルでの問い直し
- ターゲット顧客の人生において、私たちのブランドが果たす役割は?
- 顧客が私たちを選ぶことで、どのような変化が生まれるか?
- 段階3:言語化
- 上記を、短く力強い言葉で表現する
- 社員やパートナーが自分ゴト化できるレベルの表現
実例1:コスメブランドの場合
- ビジョンレベル:女性の「自分らしさを表現する権利」を世界に広める
- 顧客レベル:ターゲット顧客が、メイクを通じて「本当の自分」を発見・表現できる経験を提供
- Why表現:「あなたらしさを、花ひらかせる」
実例2:フィットネスアプリの場合
- ビジョンレベル:座りっぱなしの現代人の健康を取り戻す
- 顧客レベル:忙しい社会人が、わずかな時間で「自分のペース」で運動習慣を作ることができる
- Why表現:「毎日3分で、人生が変わる」
Step 2:What(提供価値)の定義
What is What?
「What」とは、ブランド・サービスが、ターゲット顧客に対して、具体的にどのような価値を提供するのかを定義するもの。
機能的価値(何ができるのか)と感情的価値(どう感じられるのか)の両面から定義することが重要です。
What定義の進め方
- 段階1:機能的価値の列挙
- 製品・サービスの機能や特徴
- 品質、スピード、コスト など
- 段階2:感情的価値・自己表現的価値への変換
- その機能・特徴から、顧客が得られる感情や体験は?
- 顧客がそれを使うことで、自分をどう見せたいのか?
- 段階3:競合との差別化
- 他社も提供できる価値ではなく、「自社だからこそ」の価値は何か?
- 段階4:言語化
- What全体を短い言葉で表現
実例1:ラグジュアリー美容品の場合
- 機能的価値:最高の成分配合による肌改善効果、使用感の上質さ
- 感情的価値:「本物に包まれている」という安心感、プレミアム感
- 自己表現価値:自分を大切にしている、ハイグレードなライフスタイルを送っている人というイメージ
- What表現:「最上質の体験と、自分への投資」
実例2:サブスク型学習サービスの場合
- 機能的価値:体系的なカリキュラム、プロフェッショナル講師、いつでも学習可能
- 感情的価値:一人ではないという安心感、成長の実感
- 自己表現価値:常に学び続ける、スキルアップに投資する人というイメージ
- What表現:「自分の可能性を、いつでも広げられる」
Step 3:How(提供方法)の定義
What is How?
「How」とは、その価値をターゲット顧客に、どのようなチャネル、体験を通じて提供するのかを定義するもの。
購買前のアウェアネス、購買時の体験、購買後のロイヤリティ構築まで、顧客ジャーニー全体での提供方法を考えます。
How定義の進め方
- 段階1:チャネル戦略の定義
- ターゲット顧客は、どのメディア・チャネルに接しているか?
- 自社はどのチャネルに強いのか、または強化すべきか?
- オンライン中心か、オフライン接点を大切にするか?
- 段階2:顧客ジャーニーでの体験設計
- 認知段階:どのように知ってもらうのか?
- 検討段階:どのように信頼を勝ち取るのか?
- 購買段階:どのような購買体験を提供するのか?
- ロイヤリティ段階:どのように関係を深めるのか?
- 段階3:差別化された体験の創造
- 競合と異なる、独特の提供方法を工夫する
- 顧客にとって「忘れられない体験」となる工夫
- 段階4:言語化
- How全体を短い言葉で表現
実例1:ラグジュアリー美容品の場合
- チャネル:プレミアム百貨店、自社フラッグシップストア、オンライン(アプリ)
- 認知:インフルエンサーやセレブとのコラボ、ファッション誌への掲載
- 検討:ビューティコンサルタントによる個別カウンセリング、サンプル提供
- 購買:美しくラッピングされた商品、パーソナルショッピング体験
- ロイヤリティ:会員限定イベント、新商品の先行体験
- How表現:「プレミアムな環境での、カウンセリングベースの出会い」
実例2:サブスク型学習サービスの場合
- チャネル:モバイルアプリ、Webサイト、YouTubeコミュニティ
- 認知:SNS広告、教育インフルエンサーとの連携、無料体験キャンペーン
- 検討:オンライン説明会、利用者の成功事例紹介
- 購買:シンプルで明確な価格設定、スムーズなオンボーディング
- ロイヤリティ:学習仲間とのコミュニティ、定期的なモチベーション施策、キャリア相談
- How表現:「いつでも、誰でも、一人ではなく学べるコミュニティ」
マーケティング実施コンセプトの統合
Why、What、Howの3つが定義できたら、これらを統合した「マーケティング実施コンセプト」を、短く力強い表現で統合します。
統合の考え方
理想的なマーケティング実施コンセプトは、以下の特徴を持ちます:
- 短い:1~2行で表現できる。社員が暗唱できるレベル
- 顧客視点:企業視点ではなく、顧客にとっての価値や変化を表現
- 行動を促す:聞く人が「そうだ、こうしよう」と行動に落とし込める
- 差別化:競合にはない、自社だからこその表現
- 全施策の指針:このコンセプトから、ブランディング、営業メッセージ、デジタル施策が自然に導き出される
実例1:統合されたマーケティング実施コンセプト
ビューティテック企業の場合
- Why:女性が自分らしさを表現できる社会の実現
- What:最新テクノロジーと美の融合による、新しい美体験
- How:テックとビューティの融合により、いつでも、どこでも、自分のペースで美しさを追求できるコミュニティ
統合されたマーケティング実施コンセプト
「テクノロジーが、あなたの美を民主化する」
このコンセプトから派生する施策
- ブランディング:テックとビューティの融合の価値訴求
- デジタル施策:AR試着、美容AIアドバイス、オンラインコミュニティ
- 営業メッセージ:「最新テクノロジーで、万人が美を実現できる」
- 顧客体験:予約→AR試着→購買→オンラインコミュニティ参加という流れ
実例2:統合されたマーケティング実施コンセプト
サステナブルファッションの場合
- Why:環境配慮と個性表現の両立
- What:サステナブル素材による高品質でスタイリッシュなファッション
- How:オンラインコミュニティを通じた、消費者とのダイレクト関係構築
統合されたマーケティング実施コンセプト
「選ぶことが、地球を変える」
このコンセプトから派生する施策
- ブランディング:一つ一つの選択がもたらす環境への影響を可視化
- デジタル施策:商品の環境影響度スコア表示、環境活動レポート公開
- 営業メッセージ:「サステナブルだからこそ、本当のスタイル」
- 顧客体験:購買→環境貢献の実感→コミュニティでの情報共有
第3章:組織とコンセプトの整合性確認
整合性確認の重要性
Step4の最終段階は、定めた組織体制とマーケティング実施コンセプトが、本当に結びついているかを確認することです。
整合性がないと起きる問題
- 組織体制がコンセプト非対応
- マーケティング実施コンセプトが「デジタルコミュニティ重視」だが、組織にはSNS運用の専任者がいない
- コンセプトが「高級感とプレミアム体験」だが、営業組織が薄く、顧客接点が不足している
- コンセプトが組織に理解されていない
- 経営層は戦略を理解しているが、営業現場ではまったく異なるメッセージを顧客に伝えている
- デジタルチームと営業チームが、全く異なるトーンで顧客に接している
- コンセプト実現のプロセスが設計されていない
- 素晴らしいコンセプトが策定されたが、それをどう浸透させるかのプランがない
- 社員やパートナーが、コンセプトを自分の仕事にどう落とし込むかが不明確
整合性確認の5ステップ
ステップ1:組織体制のコンセプト対応性チェック
チェックリスト
マーケティング実施コンセプトを実現するために必要な機能・人材が、組織に備わっているかを確認します。
| 必要な機能 | 現在の組織体制 | ギャップ | 改善施策 |
|---|---|---|---|
| デジタルコミュニティ形成 | SNS1名 | 不足 | コンテンツ制作者1名追加 |
| プレミアム顧客体験 | 営業3名のみ | 不足 | VIP顧客担当1名追加 |
| データ分析・改善 | 分析者0名 | 致命的不足 | 分析者1名採用+ツール導入 |
改善方法
不足している機能については、以下の選択肢を検討します:
- 人員増加による直接対応
- 外部パートナー(エージェンシー、フリーランス)の活用
- 既存人員のスキルアップ・職種転換
ステップ2:マーケティングコンセプトの全層理解度調査
組織全体(経営層→管理層→営業・運用層)に、以下の質問を投げかけます
- 「私たちのマーケティング実施コンセプトは何か、自分の言葉で説明してください」
- 「このコンセプトから、あなたの仕事にはどのような変化がもたらされるか?」
- 「今月のあなたの施策は、このコンセプトとどう結びついているか?」
期待される結果
- 経営層:コンセプトの背景と戦略的意味を説明できる(理解度100%)
- 管理層:自分の部門での具体的な実行方法を説明できる(理解度80%以上)
- 営業・運用層:自分の日々の活動がコンセプトに基づいていることを説明できる(理解度60%以上)
理解度がこれより低い場合は、共有・教育施策が不足しています。
ステップ3:ステークホルダー間のメッセージ一貫性チェック
チェック方法
異なるチャネル・タイミングでの顧客接点で、提供されるメッセージが一貫しているかを確認します。
| 顧客接点 | メッセージ | コンセプトとの整合性 |
|---|---|---|
| ウェブサイト | 「最新テクノロジーで、美を民主化」 | ✓ 一致 |
| 営業スクリプト | 「最新テクノロジー&高品質」 | △ 部分的 |
| SNS投稿 | 「スタイリッシュに美しく」 | ✗ 乖離 |
| メールマガジン | 「テクノロジーが可能にする、新しい美」 | ✓ 一致 |
乖離している接点については、メッセージの修正と、発信者への教育が必要です。
ステップ4:コンセプト浸透施策の設計
組織全体にコンセプトを理解・実践させるために、以下の施策を設計します。
施策1:キックオフ・ワークショップ
全社または部門ごとに、以下の流れでワークショップを実施します:
- コンセプト策定の背景・思考プロセスの共有(30分)
- グループワーク:「自分の仕事から見た、このコンセプトの意味」(60分)
- 各グループの発表と全体での理解深化(30分)
施策2:ビジュアルマテリアルの制作・配布
- コンセプトをビジュアルで表現したポスター・動画
- 各チャネルでのメッセージテンプレート(営業スクリプト、SNS投稿、メール)
- 「このコンセプトから考えると、こんな施策が考えられます」という提案例集
施策3:定期的な勉強会・フォローアップ
- 月1回のマーケティング会議で、コンセプト実装状況を確認
- 四半期ごとの全社ミーティングで、コンセプトの浸透度を測定
- 成功事例や失敗事例を共有し、組織学習の場として機能させる
施策4:パートナー・外部ステークホルダーとの共有
- 代理店、協力企業、インフルエンサーに対して、コンセプト説明会を実施
- パートナー向けのガイドライン資料を制作
- 定期的なコミュニケーション通知で、コンセプトに基づいた施策の更新を周知
ステップ5:整合性確認の定期化(継続的改善)
定期的なレビュープロセス
整合性確認は、一度きりではなく、継続的に実施すべきです。
- 月次レビュー:施策の実行プロセスで、コンセプトとの整合性を即座にチェック
- 四半期レビュー:組織体制の機能性とコンセプト浸透度を測定
- 年次レビュー:市場環境の変化に応じて、組織体制またはコンセプトの更新が必要かを判断
市場が急速に変化する場合は、レビュー頻度をさらに高めることも検討すべきです。
第4章:Step4実装のベストプラクティス
実装パターン1:スタートアップの場合
組織構成
スタートアップではリソースが限られているため、以下のようなスリムな組織が現実的です:
- CEO/創業者:ブランド戦略全体の責任
- マーケティング責任者(1名):デジタル、営業支援、分析を兼務
- デジタル・コンテンツ担当者(1~2名):SNS、ブログ、デジタル広告
- 必要に応じて外部パートナー:デザイン、動画制作、データ分析など
コンセプト定義の進め方
- 創業者の「なぜこのビジネスを始めたのか」をベースにWhyを定義
- 初期顧客インタビューからターゲット顧客のニーズを把握し、Whatを定義
- 現在のチャネル強み(例:SNS、コミュニティ)をベースにHowを定義
- 月1回のマーケティング会議で、コンセプトの実装状況を確認・修正
成功のポイント
- コンセプトは、社員全員が自分ゴト化できるレベルの短さと力強さが必須
- スタートアップは市場の変化に応じて、コンセプトの微調整が頻繁に必要
- 外部パートナーに仕事を依頼する際は、コンセプトの共有が極めて重要
実装パターン2:成長期ビジネスの場合
組織構成
従業員100~300名の段階では、以下のような階層的な組織が必要です:
- CMO(Chief Marketing Officer):マーケティング全体戦略の責任
- 各機能のマネージャー(計4名):ブランド戦略、デジタル、営業連携、オペレーション
- 各機能の実行チーム(計8~15名):具体的な施策実行
コンセプト定義の進め方
- CEO、事業責任者、CMOを中心とした、コンセプト定義ワークショップ(2日間)
- 主要部門長へのコンセプト確認・フィードバック会議
- 全社キックオフで、コンセプトを全社に共有・理解させる
- 部門ごとの施策企画会議で、コンセプトから具体的な施策を導き出す
成功のポイント
- 部門が増えると、サイロ化のリスクが高まる。マーケティングコンセプトが、部門間の「共通言語」となることが極めて重要
- 新入社員やパートナーの参加時に、コンセプト研修を必須化する
- 定期的な全社勉強会で、コンセプトの浸透度を測定する
実装パターン3:成熟企業の場合
組織構成
従業員300名以上の大規模組織では、以下のような複数層の組織構成が必要です:
- CMO:経営層への報告、長期戦略の責任
- VP/SVP(部門責任者):各機能の戦略・予算管理
- マネージャー層:チーム管理、施策管理
- 実行チーム:施策の具体的実行
コンセプト定義の進め方
- 経営層ワークショップでビジョン・Why定義(1日)
- CMO主導でWhat・How定義(複数会議、計5日)
- 部門長、主要マネージャーへの説明・フィードバック(各部門1時間)
- 全社キックオフ+部門別研修で浸透(計2日間)
- 定期的なコンセプト確認会議(月次)
成功のポイント
- 大規模組織では、コンセプト伝達の中抜けが起きやすい。多層的なコミュニケーション施策が必須
- 既得権益や部門間の競争がコンセプト実行を阻害することがある。経営層の強いコミットメントが重要
- 成熟企業ほど、「新しいコンセプト」への抵抗感がある。変化の必要性を丁寧に説明する
まとめStep4完了後の全体像
Step4を完了すると、以下の状態が実現します。
1. 明確な組織体制
- ブランド戦略実現に必要な4つの機能(ブランド戦略・インサイト、デジタル・コンテンツ、カスタマーエクスペリエンス・営業連携、オペレーション・分析)がカバーされている
- 各機能の役職と責任が明確で、意思決定プロセスが定義されている
2. 組織全体を指導するコンセプト
- Why(存在意義)、What(提供価値)、How(提供方法)が統合された、短く力強いマーケティング実施コンセプトが存在する
- 経営層から営業現場まで、全員がこのコンセプトを理解し、自分の仕事に落とし込めている
3. 施策実行のベースラインが完成
- これからのすべてのマーケティング施策(ブランディング、デジタル施策、営業支援、顧客体験設計など)は、このコンセプトから自然に派生する
- 施策の一貫性が保証され、市場での「ブランドの一貫した印象」が形成される
4. 次のステップへの準備完了
- Step5以降で展開される、具体的なマーケティング施策(施策企画・ポジショニング、クリエイティブ戦略など)は、このStep4で定めた組織とコンセプトをベースに、スムーズに展開される
Step1で市場を把握し、Step2で新規カテゴリを創造し、Step3でターゲットと戦略エクイティを定義しました。Step4では、その戦略を実行する主体(組織)と指針(コンセプト)を完成させました。
これにより、シセイラボが提案する「創造性で資産を増やす」というマーケティングは、単なる理論ではなく、実行可能な現実へと昇華するのです。
