SHISEILABOマーケティング全体像 Step5 目標定義-定量目標・定性目標

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はじめに

ここまでのStep1~4で、戦略的の基礎についてお伝えしてきました。

  • Step1で市場と競合を把握し
  • Step2で新しい市場カテゴリを創造し
  • Step3でターゲット顧客と戦略エクイティを定義し
  • Step4で実行する組織とコンセプトを整備しました

今回のSTEP5では、目標定義を扱います。

「私たちは、今後何を目指しているのか?そしてそれが達成されたかどうかを、どうやって確認するのか?」

目標なしにマーケティングを進めることは、羅針盤なしに航海をするようなものです。方向感を失い、いつまで経っても目的地に到着できません。また、目標がなければ、チーム全体の動きもバラバラになり、一貫性のある施策が実行できません。Step5では、マーケティングの成功を測定するための、3つの重要な概念を学びます。それが KPI(重要業績評価指標)OKR(目標と主要成果)、そして 定性目標 です。

第1章『目標』

マーケティング初心者の方が最初に陥りやすい誤解があります。

目標=数値目標
成功=数字が増えること

確かに、数値目標は重要です。でも、それだけでは十分ではありません。

例えば、あるファッションブランドが「Instagramフォロワーを100万人にする」という目標を立てたとします。確かに100万人に到達しました。でも、フォロワーのエンゲージメント率は0.1%で、実際の売上は全く伸びませんでした。これは、「数字を追うこと」と「ビジネスを成功させること」が別物だという、悲しい現実を示しています。

3つのレベルの目標

効果的なマーケティング目標設定には、3つのレベルがあります。

OKR(野心的な方向性)

OKRとはObjectives and Key Results(目標と主要成果)です。

「1年以内に達成したい大きな目標(Objective)と、それが達成されたかを測定する3~5個の成果(Key Results)」を設定します。

何のため

OKRは、会社全体や部門全体の方向性を示す、羅針盤のようなもの。「私たちは今後、どの方向に進むのか」を、全員に伝える役割があります。

「100%達成を目指さない」ことが重要です。

多くの日本企業の目標は、「絶対に達成すべき目標(100%達成が前提)」です。でもOKRは違います。

OKRは、「これまでやったことのないくらい、大きな目標」を設定します。だいたい70~80%の達成で「上出来」と考えます。100%達成できたなら、むしろ目標が小さすぎたと考えます。

実例

従来の目標(日本企業的)OKR(シリコンバレー的)
「新規顧客数を10%増やす」「ブランド認知度を3倍にする」
「SNSフォロワー1万人」「SNSフォロワー100万人」
「売上を5%伸ばす」「市場シェアをトップ3以内にする」

KPI(日常的な測定指標)

KPIとはKey Performance Indicator(重要業績評価指標)で、「何を、どのくらい、どれくらいの頻度で測定するか」という、日々の仕事のための指標です。OKRよりも、ずっと具体的で、日常的です。

何のため

OKRは「1年間の大きな目標」ですが、毎日それだけを見ていたら、現在地が分かりません。KPIは、「今、どのくらい進んでいるのか」を毎日・毎週・毎月、確認するための指標です。

具体例

OKRが「ブランド認知度を3倍にする」なら、KPIは以下のようなものになります:

  • ブランド認知度スコア:毎月測定(現在15% → 目標45%)
  • SNSフォロワー数:毎週測定(現在5万人 → 目標50万人)
  • ウェブサイト訪問数:毎日測定(現在月10万人 → 目標月30万人)
  • 検索ボリューム:毎月測定(現在5000 → 目標15000)

これらのKPIを毎日・毎週・毎月見ながら、「今、OKRに向かって進んでいるか」を確認するわけです。

定性目標(数字では測れない価値)

定性目標とは、「数字では測りにくいけれど、ビジネスにとって大切な目標」です。

何のため?

定性目標は多くの企業が見落としている重要なポイントです。数字だけを見ていると、大切なことを見落とします。例えば、SNSのフォロワーは増えたけど、ブランドイメージは悪くなった。売上は増えたけど、顧客満足度は下がった。こういうことって、実は良くあるんです。

定性目標は、「私たちは、ビジネスを通じて、どのような価値を創造したいのか」という問いに答えるものです。

具体例

同じ「ブランド認知度を3倍にする」というOKRでも、定性目標は以下のように設定されます

  • 「顧客から『信頼できるブランド』という評価を得る」
  • 「業界のトレンドセッターとしてのポジションを確立する」
  • 「顧客とのエモーショナルな繋がりを深める」
  • 「社員が誇りを持てるブランドになる」

これらは数字では測りにくいですが、ビジネスの本質的な成功を示すものです。

第2章『KPI』

KPIとは何か?

シンプルな定義

KPIとは、「マーケティング活動がうまくいっているかどうかを、毎日・毎週・毎月、数字で確認するための指標」です。体温計のようなもの。毎日体温を測ることで、「今日、体の調子は良いのか、悪いのか」を確認します。マーケティングのKPIも同じです。

KPIの特徴

  1. 測定可能:数字で測ることができる
  2. 定期的に測定:毎日、毎週、毎月など、決まった頻度で測定する
  3. 行動に直結:KPIが良くない時は、「何をすべきか」が明確になる
  4. 部門ごと・施策ごと:部門や施策によって、異なるKPIが設定される

マーケティングにおける主要なKPIの種類

マーケティング活動は、複数のステップに分かれています。各ステップに、対応するKPIがあります。

認知段階のKPI

顧客が、あなたのブランドやサービスを「知る」段階です。

KPI説明測定頻度目標例
リーチ数あなたの情報が、何人に届いたか毎週月50万人
インプレッション数SNS広告などが、何回表示されたか毎日月200万回
ブランド認知度「あなたのブランドを知っていますか」という調査スコア毎月45%
検索ボリューム「あなたのブランド名」でGoogle検索される数毎月月5,000回

興味・関心段階のKPI

顧客が、あなたのブランドに「興味を持つ」段階です。

KPI説明測定頻度目標例
クリック数(CTR)SNS投稿やメール内のリンクを何人がクリックしたか毎日CTR 5%
SNSエンゲージメント率投稿に対して「いいね」「コメント」「シェア」が何%つくか毎週エンゲージメント率 2%
ウェブサイト訪問数ウェブサイトに何人が訪問したか毎日月10万人
平均滞在時間ウェブサイトに、平均どのくらい長くいるか毎週3分以上

購買段階のKPI

顧客が「購入を決断する」段階です。

KPI説明測定頻度目標例
コンバージョン率ウェブサイト訪問者の何%が購入するか毎日3%
カート放棄率買い物かごに入れたのに、購入しなかった率毎日40%以下
顧客獲得単価(CPA)1人の顧客を獲得するのに、何円かかったか毎月3,000円以下
平均購買価格1回の購入で、いくら使うか毎月5,000円

ロイヤリティ・リピート段階のKPI

顧客が「何度も購入する、ファンになる」段階です。

KPI説明測定頻度目標例
リピート率購入した顧客の何%が、再度購入するか毎月40%
顧客生涯価値(LTV)1人の顧客が、生涯でいくら使うか四半期50,000円
顧客満足度(NPS)「このブランドを友人に勧めたいか」という指標毎月50以上
チャーンレート顧客の何%が、やめていくか毎月5%以下

KPI設定の5つのステップ

STEP

全体目標の確認

まず、「今年、何を達成したいのか」という大きな目標(OKRのような)を確認します。例えば「売上を2倍にする」という目標なら、その達成に必要なKPIは何かを考えます。

STEP

顧客ジャーニーの段階を特定

顧客が「認知→興味→購買→ロイヤリティ」という段階を進む中で、各段階で何を測定すべきかを考えます。

STEP

各段階のKPIを選定

上記の「KPIの種類」から、自社に必要なKPIを選びます。全てを測定する必要はなく、本当に重要なものだけを選ぶことが大切です。
「3つのルール」
1. 各段階で、最大3~5個のKPIに絞る

2. 測定可能か確認する(「顧客満足度は高まったか」は曖昧。「NPS 50以上」は明確)

3. ビジネス目標に直結しているか確認する

STEP

目標値を設定

各KPIについて、「いつまでに、どのレベルに達成したいのか」という目標値を決めます。例えば、「コンバージョン率を、現在2%から、6ヶ月以内に3.5%に高める」という具合です。良い目標値の条件は、現状から見て、「頑張ったら達成できそう」な難易度(50~70%の確率で達成できるレベル)+「根拠がある」目標値(「なんとなく」ではなく、市場データなどに基づいている)

STEP

測定方法と責任者を決める

「誰が、何を使って、いつ測定するのか」を明確にします。例えば、「デジタルマーケティングマネージャーが、Google Analyticsを使って、毎日14:00にレポートを作成し、毎週金曜に全チームで確認する」という具合です。

KPI運用の実践のコツ

コツ1「一日遅れ」ルール

リアルタイムで測定できるKPIもありますが、「昨日のデータを今日確認する」という「一日遅れ」が理想的です。理由は、データの正確性と処理時間を考慮するためです。

コツ2「信号機」で可視化

KPIが「目標値に対して、どのくらい進んでいるか」を、信号機(緑=好調、黄=注視、赤=要改善)で示すと、一目瞭然です。

コツ3「なぜ」を常に問う

KPIが悪い時、「何が悪いのか」だけでなく「なぜ悪いのか」を必ず分析します。そこから、改善施策が生まれます。

コツ4 月次ではなく週次で見る

月1回だけKPIを見ていると、問題に気づくのが遅くなります。最低でも週1回、できれば毎日見ることをお勧めします。

第3章『OKR』

OKRとは何か

シンプルな定義

OKRとは、「会社全体や部門全体として、今年1年間で達成したい『野心的な目標』と、それが達成されたかを測定する『主要な成果』」です。

KPIと最も大きく違う点は、「100%の達成を目指さない」ということです。

OKRの歴史

OKRは、1970年代にシリコンバレーの伝説的な投資家・ジョン・ドーア(John Doerr)が、Intelで働く際に学んだマネジメント手法です。その後、Google、Amazon、Facebook、LinkedIn、Twitterなど、多くのテック企業が採用して成功してきました。日本の企業では、まだあまり普及していませんが、最近、急速に注目が高まっています。

OKRの構造:Objective(目標)と Key Results(主要成果)

Objective(目標)とは

Objectiveは、「1年以内に、どのような状態になりたいのか」という、定性的で、inspiring(ワクワクする)な目標です。

  • 短く、1~2行で表現できる(「業界のトレンドセッターになる」)
  • 達成されたら、ビジネスに大きなインパクトをもたらす(「顧客から『最も信頼できるブランド』と評価される」)
  • チーム全体が理解し、モチベーションが上がる内容(「1年で市場シェア3倍を達成する」)

Key Results(主要成果)とは

Key Resultsは、「Objectiveが達成されたかどうかを、どう測定するのか」という、定量的で測定可能な成果です。

  • Objectiveごとに、3~5個設定する
  • 数字で測定できる
  • 達成度を「何%達成したか」で評価できる

例(上記の「業界のトレンドセッターになる」というObjectiveの場合)

  • Key Result 1:「媒体掲載数が月20件に達する」
  • Key Result 2:「SNSフォロワー50万人に達する」
  • Key Result 3:「業界ランキングで3位以内に入る」
  • Key Result 4:「インフルエンサー・メディアからの言及が月50件に達する」

OKRの4つの重要な特徴

特徴1「70~80%達成で上出来」という考え方

これが、日本の従来の目標管理と最も大きく異なる点です。例えば、OKRで「SNSフォロワー100万人」という Key Result を設定したとします。

もし100万人を達成したなら、多くの企業の経営層は喜びます。でもOKRの考え方では、「目標が小さすぎた」と評価します。

100万人に達したのなら、本来は「200万人」を目指すべきだったのです。なぜこのような考え方なのか?理由は、「組織を成長させるため」です。

大きな目標に向かうプロセスの中で、組織は学習し、成長します。仮に70%の達成度(70万人)で終わったとしても、その過程で多くのことを学んだはずです。その学習こそが、次の年へのステップアップになります。

特徴2「透明性」と「コミットメント」

OKRは、全社員に公開されます。経営層、マーケティング部門、営業部門、企画部門…全員のOKRが可視化され、共有されます。

理由は、「全員が同じ方向を向く」ためです。

営業部門のOKRが「売上2倍」であり、マーケティング部門のOKRが「認知度1.5倍」なら、この2つが連動しているか確認できます。もし連動していなければ、一方を修正すべきです。

特徴3「チャレンジ」と「実現可能性」のバランス

OKRは、「どうがんばっても達成できない、まるで空想のような目標」ではありません。また、「絶対に達成できる、つまらない目標」でもありません。その中間、「やってみたら達成できるかもしれない、でも相当な努力が必要」という難易度が、理想的です。

特徴4「定性的な Objective」と「定量的な Key Results」の組み合わせ

Objective は、「なぜそれをしたいのか」という「why」を語るものです。だから、ちょっと poetic(詩的)でも構いません。一方、Key Results は、「本当に達成されたのか」を、数字で測定するものです。この両者の組み合わせが、OKRの力なのです。

OKRの設定ステップ

STEP

全社・部門レベルでの目標を確認

例えば:

  • Objective:「市場カテゴリトップのポジションを確立する」
    • Key Result 1:「市場シェア30%に達する」
    • Key Result 2:「ブランド認知度 80% に達する」
    • Key Result 3:「顧客満足度 (NPS) 70 に達する」
STEP

部門ごとの OKR を策定

各部門(マーケティング、営業、カスタマーサクセスなど)が、「全社 OKR を達成するために、自分たちは何をするのか」という OKR を定義します。

例えば、全社 OKR が「市場シェア 30% 」なら、マーケティング部門の OKR は「ターゲット顧客の認知度を 80% に高める」かもしれません。

STEP

チーム・個人レベルでの OKR を策定

さらに細かく、各チームや個人が「自分たちの OKR」を定義します。

例えば、デジタルマーケティングチームの OKR は「SNS フォロワー 50 万人、エンゲージメント率 3%」かもしれません。

STEP

OKR 同期(チェックイン)

週1回、または月1回、OKR の進捗を全員で確認します。

  • 「このままのペースで達成できそうか」
  • 「達成を阻む課題は何か」
  • 「誰の支援が必要か」

これらを話し合い、必要に応じてアクションプランを修正します。

STEP

四半期ごと、年一回の評価

3ヶ月ごと、そして年1回、OKR の達成度を評価し、「次の期間の OKR 」を設定します。

マーケティング部門の OKR 設定の例

以下は、実際のマーケティング部門が設定し得る OKR の例です。

例1:認知拡大フェーズ

Objective:「業界トレンドセッターのポジションを確立する」

  • Key Result 1:「SNS フォロワー 30 万人に達する」
  • Key Result 2:「月間ウェブサイト訪問 100 万人に達する」
  • Key Result 3:「業界媒体への掲載件数月 30 件に達する」
  • Key Result 4:「YouTube チャンネル登録者 10 万人に達する」

例2:顧客獲得フェーズ

Objective:「リード生成を 3 倍に加速させる」

  • Key Result 1:「見込み客データベース 5 万件に達する」
  • Key Result 2:「営業への引き継ぎリード月 1 千件に達する」
  • Key Result 3:「リード獲得単価を 50% 削減する」
  • Key Result 4:「顧客獲得コンバージョン率 5% に達する」

例3:ロイヤリティ構築フェーズ

Objective:「顧客ロイヤリティを飛躍的に高める」

  • Key Result 1:「顧客満足度(NPS)80 に達する」
  • Key Result 2:「リピート購入率 60% に達する」
  • Key Result 3:「顧客生涯価値(LTV)を 2 倍にする」
  • Key Result 4:「顧客紹介件数月 500 件に達する」

第4章『定性目標』

定性目標とは何か

シンプルな定義

定性目標とは、「数字では測りにくいけれど、ビジネスにとって極めて大切な目標」です。

ブランドイメージ、顧客満足度、従業員のやる気、市場でのポジション…これらは、「数字」では完全には測れません。でも、ビジネスの成功には、これらが欠かせないのです。

なぜ定性目標が必要か

多くの企業がマーケティングの数字(PV、コンバージョン、売上)ばかりを見ていると、大切なことを見落とします。

例えば

  • 「売上は増えたが、ブランドイメージは悪くなった」
  • 「顧客は増えたが、満足度は下がった」
  • 「ビジネスは拡大したが、社員のモチベーションが下がった」

こういう状況は、数字だけを追っていると、気づきにくいのです。

定性目標は、「私たちのビジネスは、本当の意味で、成功しているのか」を問い直す、重要なツールなのです。

マーケティングにおける主要な定性目標の例

ブランド関連の定性目標

  • 「顧客から『信頼できるブランド』と評価される」
  • 「『業界のトレンドセッター』というポジションを確立する」
  • 「競合と異なる、ユニークなブランドアイデンティティを確立する」
  • 「顧客とのエモーショナル(感情的)な繋がりを深める」

顧客体験関連の定性目標

  • 「顧客が『購買プロセス全体で喜びを感じる』ような体験を実現する」
  • 「顧客が『このブランドを友人に勧めたい』と感じるレベルの満足度を実現する」
  • 「『問題解決型』ではなく『価値創造型』のカスタマーサクセスを実現する」

組織・文化関連の定性目標

  • 「全社員が、マーケティング戦略に対して『自分事化』できる状態を作る」
  • 「マーケティング部門が『創造的で、チャレンジングな』組織になる」
  • 「社内でのマーケティングの認識と重要性が高まる」

市場・社会関連の定性目標

  • 「業界の常識を変える、新しいマーケティング手法を確立する」
  • 「持続可能性、社会貢献など、社会的価値を実現する」
  • 「顧客とのコミュニティ形成を通じて、社会への貢献度を高める」

定性目標を測定可能にする「代理指標」

定性目標は数字では測れませんが、「代理指標」(プロキシ指標)を用いることで、ある程度の測定は可能です。

定性目標代理指標測定方法
「顧客から『信頼できるブランド』と評価される」ブランド信頼度スコア顧客アンケートで、「このブランドを信頼しますか」という質問に、1~10点で答えてもらう。目標 8点以上
「顧客が『友人に勧めたい』と感じる満足度」NPS(ネットプロモータースコア)「このブランドを友人に勧める可能性は」と聞き、0~10点で答えてもらう。目標 50以上
「全社員が『自分事化』できる状態」社内エンゲージメント調査年2回、「マーケティング戦略に対して、自分事化できていますか」という質問で測定。目標 80%以上が「はい」
「マーケティング部門が『創造的な』組織」チームエンゲージメント調査、アイデア提案数年2回のアンケート、そして月間でのアイデア提案数を追跡。目標 月10件以上

定性目標の設定ステップ

STEP

「本当に大切なこと」を問い直す

  • 「このビジネス、このマーケティング活動を通じて、私たちは何を実現したいのか」
  • 「顧客にとって、数字に現れない『良い変化』は何か」
  • 「社員が『やり甲斐を感じる』ために、何が必要か」
STEP

定性目標の候補を列挙

上記の問いから、3~5個の定性目標を列挙します。この段階では、「測定可能か」は気にしなくて大丈夫。思いつくままに、大切だと思うことを書き出します。

STEP

代理指標を定義

列挙した各定性目標について、「これが達成されたことを、どう測定するのか」という代理指標を定義します。

STEP

目標値を設定

定性目標ごとに、「代理指標で、この程度の値に達したら、目標達成と考えよう」という目標値を設定します。

  • ブランド信頼度スコア 8 点以上
  • NPS 50 以上
  • 社内エンゲージメント 80% 以上
STEP

定期的にレビュー

定性目標は、通常、年1回の評価になります。でも、定性目標に関する代理指標は、四半期ごと、または年2回測定することをお勧めします。

第5章『上手な目標』

3つの目標設定フレームワークがどう連携するか

これまで、KPI、OKR、定性目標を、それぞれ独立したものとして説明してきました。でも、実際には、この3つは一つのシステムとして機能します。

全体像

経営戦略・マーケティング戦略

OKR(野心的な目標)
↙ ↓ ↘
KPI 代理指標 定性的評価
(数字)(測定) (体感)
↖ ↓ ↙
定期的なレビュー

改善施策の実行
ステップ

経営戦略・マーケティング戦略をもとにOKRで方向性を定める

OKR は、「今年 1 年間で、私たちは何を目指すのか」という、大きな方向性を示すものです。全社員が理解し、「これだ!」とモチベーションが上がるレベルの目標です。

STEP

KPIで日々のアクションや活動を評価する

OKR を達成するために、「毎日、毎週、毎月、何を測定すべきか」を示すのが KPI です。例えば、OKR が「市場シェア 30% に達する」なら、KPI は「認知度月 75%、見込み客月 5 千件、コンバージョン率 3.5%」という具合です。これらを毎日・毎週・毎月見ることで、「今、OKR に向かって進んでいるか」を確認します。

STEP

定性目標で活動に意味を与え本質的な価値を社内に浸透する

KPI が良い状態であっても、定性目標が達成されていなければ、ビジネスは失敗です。例えば、「売上 2 倍」という KPI は達成したが、「顧客満足度が下がった」という定性目標は失敗したなら、それは本当の成功ではありません。定性目標を定期的に確認することで、「私たちのビジネスは、本当の意味で、成功しているのか」を問い直すことができます。

ビューティブランドの例

具体的に、あるビューティブランドの目標設定例を見てみましょう。3 年前にスタートしたスタートアップ。現在、月売上 1 千万円。次年度の目標は「月売上 5 千万円(5 倍成長)」という現在地です。

定義された OKR

Objective:「日本のビューティマーケットで、『最も信頼できるサステナブルブランド』として認識される」

Key Results:

  • KR1:「ブランド認知度 50% に達する(現在 12%)」
  • KR2:「月売上 5 千万円に達する(現在 1 千万円)」
  • KR3:「顧客リピート率 60% に達する(現在 35%)」
  • KR4:「SNS フォロワー 50 万人に達する(現在 8 万人)」

対応する主要 KPI

OKR エリア主要 KPI測定頻度目標値
認知度ブランド認知度スコア毎月50%
認知度検索ボリューム毎月月 1 万回
認知度SNS フォロワー毎週50 万人
売上月間売上毎日500 万円
売上新規顧客数毎日月 1 千人
売上コンバージョン率毎日4%
リピートリピート率毎月60%
リピート顧客生涯価値毎月50,000 円
SNSエンゲージメント率毎週3%

定義された定性目標

  1. 「顧客から『信頼できるブランド』と評価される」
    • 代理指標:ブランド信頼度スコア(目標 8/10)
  2. 「『サステナブルの価値観を持つブランド』という市場でのポジショニングを確立する」
    • 代理指標:業界調査で『サステナブル関連で最も言及されるブランド』ランキング(目標 TOP3)
  3. 「顧客が『このブランドを応援したい』と感じるレベルのエモーショナル繋がりを実現する」
    • 代理指標:顧客ロイヤリティスコア(目標 80/100)
  4. 「社員全員が『このビジョンに向かって、一致団結している』と感じる組織文化を作る」
    • 代理指標:社内エンゲージメント調査(目標 85% 以上が『自分事化できている』)

3つの目標設定フレームワークの運用サイクル

月次レビュー(毎月末)

  • KPI を確認:「目標値に対して、今どのくらい進んでいるか」
  • 課題の抽出:「進んでいないなら、なぜか」
  • 改善施策の立案:「来月、何をするべきか」

四半期レビュー(3 ヶ月ごと)

  • OKR の進捗確認:「目標達成に向かっているか」
  • 年間目標に対する達成度の予測:「このままのペースで、年間目標に達するか」
  • 必要に応じて、OKR や KPI の修正

年間レビュー(年 1 回)

  • OKR の達成度を評価(0~100%)
  • 定性目標の達成度を確認(代理指標で測定)
  • 来年度の OKR・KPI・定性目標を策定

第6章『注意』

「KPI が多すぎる」

多くの企業が、「とにかく何か測定しておきたい」という心理で、10 個以上の KPI を設定してしまいます。

結果、「何が本当に重要なのか分からなくなる」という状態に陥ります。

各段階で最大 3~5 個の KPI に絞る。「本当にビジネスに影響するのは何か」を問い直す。

「定性目標を、定量的に測定しようとする」

「顧客満足度を 95% にする」という定性目標を、無理に数値化してしまうケースです。

結果、「数字は達成したが、実際には顧客満足度は高まっていない」というちぐはぐな状況になります。

定性目標は、代理指標(NPS のような)で測定する。「完全な数値化」は目指さない。

「OKR を立てたが、運用していない」

OKR を立てるだけで、その後、月次チェックインを行わないパターンです。

結果、「OKR を忘れて、いつもの仕事をしている」という状態になります。

OKR は、月 1 回以上チェックインし、進捗を確認する。必要に応じて、中間での修正も行う。

「目標値が現実離れしている」

OKR は「野心的」であるべきですが、「物理的に不可能な」レベルまで高くするのは逆効果です。

結果、「どうせ達成できない」と、チームのモチベーションが下がります。

「難しいが、やってみたら達成できるかも」という難易度(70~80% 達成可能性)を目指す。

「KPI・OKR・定性目標が、バラバラに動いている」

マーケティング部門の OKR が「認知度 50%」でも、営業部門の OKR が「見込み客数 2 倍」なら、この 2 つは連動しているか確認する必要があります。

月次レビューで、複数の部門の KPI・OKR が、ちゃんと連動しているか確認する。

Step5 完了後の全体像

Step5 を完了すると、以下の状態が実現します。

1. 野心的で、モチベーションが上がる OKR が定義されている

経営層から営業現場まで、全員が「今年、何を目指すのか」を理解し、一致団結して向かっている状態です。

2. 日々の仕事を測定する、明確な KPI が定義されている

毎日・毎週・毎月、「今、どのくらい進んでいるか」を確認できる体制が整っています。問題が発生しても、すぐに気づき、対応することができます。

3. ビジネスの本質的な成功を問い直す、定性目標が設定されている

数字だけを追うのではなく、「顧客満足度は高まっているか」「ブランドイメージは向上しているか」「社員のやる気は上がっているか」という本質的な価値も、定期的に確認されています。

4. 全体として、統合的な目標管理システムが動いている

OKR(方向性)→ KPI(日々の測定)→ 定性目標(本質的価値)が、一つのシステムとして機能し、マーケティング部門全体が、同じ目的に向かって動いています。

5. Step6 以降の施策実行のベースが整っている

これから実行する各マーケティング施策(ポジショニング、クリエイティブ戦略、チャネル戦略など)は、この Step5 で定義された目標に基づいて、企画されます。目標と施策が一貫性を持つようになるのです。

Step1 で市場を把握し、Step2 で新規カテゴリを創造し、Step3 でターゲットを定義し、Step4 で組織を作り上げました。Step5 では、「その組織が、何を目指して、どう動くのか」という動きの羅針盤を設定しました。シセイラボは「創造性で資産を増やすマーケティングパートナー」です。

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