SHISEILABOマーケティング全体像 Step6 ブランド全体像定義《プロダクト・開発定義》

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はじめに

これまでのStep1~5で、私たちはマーケティング戦略の基礎を構築してきました。

  • Step1で市場と競合を把握し
  • Step2で新しい市場カテゴリを創造し
  • Step3でターゲット顧客と戦略エクイティを定義し
  • Step4で実行する組織とコンセプトを整備し
  • Step5で目標(OKR・KPI・定性目標)を設定しました

しかし、ここまで進んでも、まだ重要な問題が残ります。

「私たちのブランドを、顧客の人生の中で、どのように『体験』させるのか?」

言い換えれば、「ブランドの世界観を、実際の『プロダクト』や『サービス』『店舗』『デジタル』など、すべての接点にどう落とし込むのか」という問題です。これまでは「戦略」を立てる段階でしたが、Step6からは、その戦略を「実際に顧客が体験できる形」に具体化していく段階に入ります。Step6では、この具体化のための、4つの重要な概念に触れます。これらを理解することで、「バラバラな施策」から「統合された体験」へと、ブランドを進化させることができるようになります。

  1. ブランドとは焼印…すべての接点での一貫性
  2. 4P・4C・7P…マーケティング要素の体系化
  3. パーセプションフローモデル…顧客認識の形成プロセス
  4. アドオン最適化…すべての接点での顧客価値体験

第1章「ブランドとは焼印」-ブランドの本質的理解

ブランドとは何か-初心者向けの定義

ブランド≠ロゴやネーム

多くの初心者が陥る誤解があります。

ブランドとは、会社名やロゴ。ブランディングとはロゴを作ること

これは、完全な間違いです。

ブランドロゴやネームは、ブランドの外見に過ぎません。本当のブランドとは、顧客の心の中に形成される、その企業や商品に対する『イメージ』『信頼』『感情』のことなのです。

「焼印」というメタファーの力

ブランドとは焼印」です

焼印とは何か…焼印とは、牧場の牛に対して、熱した鉄を押しつけて、所有者の印をつけるもの。同じ焼印で何度も押すたびに、同じ形の傷が刻まれます。

焼印に例えたブランドの意味…ブランドも焼印と同じです。顧客が、ブランドと関わるすべての場面・すべての接点で、同じ「焼印」が押される。その結果、顧客の心に、同じ形の「ブランドイメージ」が、何度も繰り返し刻まれていく。これが、本当のブランドなのです。

「すべての接点」とは何か?

認知段階のタッチポイント

  • 広告・コンテンツ:テレビ、YouTube、SNS、ブログ記事など、顧客が初めてブランドを知る接点
  • SNS・口コミ:友人からの紹介、SNS上での評判、レビューサイトなど、他者を通じた情報

購買前段階のタッチポイント

  • ウェブサイト・アプリ:顧客が情報を集め、検討する場所
  • 店舗体験:実店舗での雰囲気、スタッフの対応、商品の陳列方法など

購買・使用段階のタッチポイント

  • パッケージング:商品を包む箱やビニール。開けた時の体験
  • アンボックス体験:商品を開封した時の喜び、驚き
  • 商品そのもの:実際の使い心地、品質、性能

購買後段階のタッチポイント

  • カスタマーサービス:問い合わせ時の対応、返品・交換の手続き
  • 購後コミュニケーション:メール、お礼状、フォローアップなど
  • ロイヤリティプログラム:ポイント、会員特典など

その他の接点

  • 従業員:店員や営業担当者の態度や言葉遣い
  • 企業のSNS発信:会社の公式アカウントのトーン・空気感
  • パートナー企業との関わり:配送業者、ラッピング業者など

焼印が「ズレる」ことの恐ろしさ

ここで重要なポイントがあります。焼印がもし、毎回違う形だったらどうなるでしょうか?同じ牛に対して、1回目は「A」という焼印、2回目は「B」という焼印、3回目は「C」という焼印を押したら…見た目は「統一性のない、何が何だか分からない」状態になります。

ブランドも同じです。

  • 広告では「高級感」「エレガント」を強調
  • SNSでは「可愛い」「ポップ」な雰囲気
  • 店舗スタッフは「ビジネスライク」で淡々とした対応
  • 購後メールは「セール」「割引」ばかり

このような場合、顧客は何を感じるでしょうか?「このブランド、本当は何なんだろう?」という、不安や混乱を感じるはずです。これが、「焼印がズレている」状態です。

すべての接点での一貫性の価値

一方、焼印が完全に統一されていたら?すべての接点で、同じメッセージ、同じトーン、同じ価値観が貫かれていたら。顧客の心には、明確で、強固な「ブランドイメージ」が形成されます。その結果、何が起きるか?

  • 「このブランド、何か信頼できる」という感覚
  • 「このブランドのこと、もっと知りたい」という興味
  • 「他の人にも勧めたい」というロイヤリティ

これが、真のブランド資産です。

第2章 4P・4C・7P-マーケティング要素の体系化

マーケティングの古典「4P」とは何か

1960年代、アメリカのマーケティング学者フィリップ・コトラーが、マーケティング活動を4つの要素に分類しました。これが「4P」です。4Pは、企業視点のマーケティングコンセプトの軸になります。

1. Product(商品)「何を売るのか」という商品・サービスそのもの

  • 商品の機能、性能、品質
  • 商品のデザイン、パッケージング
  • 商品のサイズ、バリエーション

2. Price(価格)「いくらで売るのか」という価格設定

  • 定価、卸値
  • キャンペーン時の割引
  • 値引き戦略

3. Place(流通・販売場所)「どこで売るのか」という販売チャネル

  • 店舗での販売
  • オンラインストア
  • 卸売業者を通じた販売

4. Promotion(販売促進・広告宣伝)「どう売るのか」という販促・広告活動

  • テレビCM、新聞広告
  • SNS広告
  • キャンペーン施策

4Pの限界と「4C」の登場

4Pの問題点と4C…1960年代に有用だった4Pですが、時代が進むにつれて、問題が明らかになってきました。4Pは、すべて「企業視点」だということです。企業は「何を売りたいのか」「どこで売りたいのか」「いくらで売りたいのか」を考えています。でも、顧客の視点は違います。顧客が気にしているのは、「企業の事情」ではなく、「自分にどのような利益があるのか」なのです。そこで1990年代、この視点の転換が起きました。それが「4C」です。4Cは、顧客視点でマーケティングコンセプトのベースを再構成したもの。

1. Customer Value(顧客価値)「顧客にとって、どのような価値があるのか」

Product(商品)ではなく、Customer Value(顧客価値)を考えます。

  • Product視点:「高品質の美容液」
  • Customer Value視点:「肌が若返ったようなツヤ感と、自分に自信が持てる感覚」

2. Cost(顧客負担コスト)「顧客にとって、総合的にいくらかかるのか」

Price(価格)ではなく、Cost(顧客が払うべき総コスト)を考えます。

  • Price視点:「1本5,000円」
  • Cost視点:「5,000円の金銭コスト+購入までの時間コスト(店に行く時間)+使用期間中の手間」

3. Convenience(利便性)「顧客にとって、いかに便利か」

Place(販売場所)ではなく、Convenience(顧客にとっての利便性)を考えます。

  • Place視点:「渋谷の店舗、銀座の店舗」
  • Convenience視点:「24時間注文可能なオンラインストア、翌日配送、スマートフォンで簡単に購入できる」

4. Communication(コミュニケーション)「顧客と、いかに双方向で対話するか」

Promotion(一方的な広告)ではなく、Communication(双方向対話)を考えます。

  • Promotion視点:「テレビCMで、商品の良さを一方的に伝える」
  • Communication視点:「SNSで顧客の質問に答える、顧客の意見を聞いてサービスを改善する」

サービス業を中心にした拡張「7P=4C+3P」

4Pと4Cの限界…しかし、実は4Pも4Cも、「モノ」(有形商品)を想定して作られたフレームワークです。では、「サービス」(無形商品)の場合はどうするのか?例えば、ホテル、美容院、コンサルティングなど。これらの場合、新たに3つの要素が加わります。

5. People(人)「サービスを提供する人」が重要になります

  • ホテルのスタッフの接客態度
  • 美容師の技術や雰囲気
  • コンサルタントの信頼性

顧客にとって、「何を」提供されるか(Product)と同じくらい、「誰に」提供されるかが重要です。

6. Process(プロセス)「サービスの提供プロセス」が顧客体験に影響します。

  • ホテルのチェックイン手続きが簡単か、複雑か
  • 美容院の予約システムが使いやすいか
  • 診療の待ち時間

同じサービスでも、提供プロセスが異なると、顧客体験は大きく変わります。

7. Physical Evidence(物証・有形要素)「サービスの物理的な環境」が顧客体験を形作ります。

  • ホテルの内装、清潔さ、アメニティ
  • 美容院の雰囲気、BGM、香り
  • 病院の待合室の環境

目に見えない「サービス」であっても、目に見える「環境」を整えることで、顧客体験は大きく向上します。

初心者向けの統合理解:4P→4C→7P

視点フレームワーク適用範囲考える主体
企業視点4P(Product、Price、Place、Promotion)有形商品中心企業側「何を売りたいか」
顧客視点4C(Customer Value、Cost、Convenience、Communication)有形商品・サービス共通顧客側「何を得たいか」
顧客体験7P(4C+People、Process、Physical Evidence)サービス業中心顧客の全体的な体験

第3章 パーセプションフローモデル-顧客認識がどう形成されるか

「パーセプション」とは何か

パーセプションとは「知覚」「認識」「印象」。顧客がブランドに対して、どのようなイメージを持つようになるのか、という流れを示すモデルが「パーセプションフローモデル」です。

顧客認識が形成される7つの段階

顧客は、複数のタッチポイントを通じて、段階的にブランドに対するイメージを形成していきます。

段階1:広告・コンテンツとの接触(認識段階30%)

顧客が、初めてブランドの広告やコンテンツを見る段階。例えば、YouTubeの広告、SNSの投稿、ブログ記事など。この時点での顧客の認識は、まだ非常に浅い状態です。購買が安定した段階でもブランドに対する認識レベルは最大30%程度と把握します。「あ、こんなブランドがあるんだ」という程度。最初の3秒が勝負。「続きを見たい」「もっと知りたい」という興味を引き出せるか、それとも「つまらない」と無視されるか。

段階2:SNS・口コミとの接触(認識段階50%)

友人からの紹介、SNS上での評判、レビューサイトなど、「他者の評価」を通じたブランド認識。認識レベルは50%「へえ、このブランド、評判良さそうだな」という、社会的証明(ソーシャルプルーフ)による信頼感が生まれ始める段階。人は、企業の発信よりも、第三者の評価を信じやすい。SNSでのフォロワーやいいねの数、レビューサイトでの評価が、非常に重要になります。

段階3:ウェブサイト・デジタル体験(認識段階65%)

顧客が、ウェブサイトやアプリを訪問し、詳しい情報を集める段階。認識レベルは65%「詳しく知りたい」という動機で、深い情報に接触する。ここで、ブランドのコンセプト、商品情報、企業理念などが伝わります。ウェブサイトは、顧客が「最も詳しく情報を集める場所」です。ここで体験が悪い(複雑、遅い、分かりにくい)と、購買意欲は急速に低下します。

段階4:店舗・実体験(認識段階80%)

実店舗を訪問し、実物を手にとり、スタッフと会話する段階。認識レベルは80%。それまでの「イメージ」が、「実感」に変わります。商品の質感、店舗の雰囲気、スタッフの対応が、大きな影響を与えます。ここまでのすべての接点での期待値に対して、実際の体験がどうか。もし期待値より低かったら、購買は失敗に終わる可能性が高い。逆に期待値を上回ったら、強力なファンになる可能性が生まれます。

段階5:購買・パッケージング体験(認識段階90%)

商品を購入し、パッケージを開ける瞬間。この「アンボックス体験」が重要です。認識レベルは90%購買直前までの認識がここで結晶化します。同時に、「買ってよかった」という満足感が、最大化する瞬間でもあります。多くのブランドが見落としているポイント。パッケージングは「商品を守るだけのもの」ではなく、ブランド体験の最高のクライマックスになり得ます。高級ブランドは、ここに大きな投資をしています。なぜなら、このタイミングで顧客のテンションが最高潮だからです。

段階6:製品・サービスの使用体験(認識段階95-100%)

実際に商品を使ってみる。サービスを受けてみる。この段階が、最も重要です。ブランドに対する認識レベルは95-100%、ここまでのすべての期待値が、この瞬間に検証されます。ここが、「すべてが決まる場所」です。それまでのすべてのマーケティング投資が、この一瞬に集約されます。

  • 期待値>実際の体験:期待外れ。ブランドは失敗。
  • 期待値=実際の体験:満足。ブランドはまあ成功。
  • 期待値<実際の体験:感動。ブランドは大成功。ファンになる可能性が非常に高い。

段階7:購後体験・コミュニティ(認識段階100%以上)

商品を使った後、カスタマーサービスを受けたり、ロイヤリティプログラムに参加したり、オンラインコミュニティに加わったりする段階。認識レベルは100%以上、ここまで来ると、顧客は単なる「購買者」ではなく、「ブランドのファン」「アンバサダー」へと進化しています。自分から友人に勧め、SNSで発信し、企業にフィードバックを与えるようになります。ブランドの資産は、ここで本当に形成されます。一度のマーケティング投資ではなく、継続的な顧客価値提供を通じて、生涯顧客が作られる段階です。

パーセプションフローにおける「ズレ」の危険性

ここで重要な警告があります。各段階での認識が、一貫していることが、最も重要です。このズレが起きると、顧客の心には「違和感」や「不信感」が生まれます。パーセプションフローで最も重要なルールは「どの段階でもズレない」ことです。

  • 広告では「プレミアム」というイメージだが、実際の店舗はスーパーの並売コーナーで殺風景
  • ウェブサイトでは「環境配慮」が強調されているが、実際のパッケージングは過度に豪華でプラスチック多用
  • SNSでは「親しみやすい」というトーンだが、カスタマーサービスは非常に事務的

第4章 ブランドコンセプトボード-ブランド世界観の可視化

ブランドコンセプトボードとは何か

まず、マーケティングコンセプトとブランドコンセプトについて補足します。

  • マーケティングコンセプト(Step4で定義):「Why-What-How」を統合した、マーケティング活動全体の指針となる短い言葉
  • ブランドコンセプト(Step6で定義):ブランドの世界観、ブランドパーソナリティ、ブランドの約束を包括した、より深く、より本質的なブランドの考え方

ブランドコンセプトボードとは何か…ブランドコンセプトボード=「ブランドコンセプトを、ビジュアルと言葉で一ページに統合したもの」Step4で定義したマーケティング実施コンセプトを、実際のプロダクト開発やマーケティング施策に落とし込むための、ブランドの世界観を示す具体的なツールです。

ブランドコンセプトボードに含まれる要素

1. ビジュアルイメージ

  • ブランドカラー
  • ブランドの世界観を表現するキービジュアル(写真、イラスト)
  • 字体(フォント)
  • グラフィックスタイル
  • ブランドの「見た目の言語」

作成のポイント

「見ただけで、このブランドの世界観が伝わる」というレベルの統一性が重要。例えば、ラグジュアリーブランドなら、配色は「黒+金」「深紫+銀」など、上質で洗練された雰囲気を演出する色合い。一方、ヤングカルチャー系なら、明るく、遊心があり、エネルギッシュな配色。

2. ブランドアイデンティティの言語化

  • ブランドの約束(Promise):「このブランドを選ぶと、こうなる」という顧客への約束
  • ブランド個性(Personality):「このブランドは、どんなキャラクター?どんな人格?」という人格的な特徴
  • ブランド価値観(Values):「このブランドが大切にしていることは?」という企業としての根本的価値
要素例1:ラグジュアリー美容ブランド例2:フィットネスアプリ
約束「肌が変わる。人生が変わる。」「毎日3分で、人生が変わる。」
個性エレガント、知的、洗練、大人っぽいフレンドリー、励まし、楽しさ、親しみやすい
価値観「自分への投資は、最高の投資」「無理なく続けることが、成功の秘訣」

3. ターゲット顧客イメージ

  • 顧客は誰か(年代、性別、職業など)
  • 顧客のライフスタイル、生活風景
  • 顧客の価値観、大切にしていること
  • 顧客が何に悩んでいるか、何を求めているか

4. ブランド体験のシナリオ

  • 顧客がこのブランドと出会う場面
  • その場面での顧客の感情の変化
  • ブランドとの関わりを通じて、顧客が得る価値や変化
  • 最終的に顧客が手に入れる「新しい自分」

「通勤中の電車で、疲れた表情の女性がいる。彼女のスマートフォンに『フィットネスアプリ』の通知が来る。『今日も3分チャレンジ!』というメッセージ。彼女は、ほっこりとした笑顔になり、ランチ休みに運動を始める。1ヶ月後、彼女の友人が『何か変わった?』と聞く。『毎日3分でも、塵も積もれば…ね。でも何より、毎日を前向きに過ごせるようになった』と、自分に自信を持った表情で答える。」

ブランドコンセプトボードとマーケティングコンセプトの関係

要素マーケティングコンセプト(Step4)ブランドコンセプトボード(Step6)
定義Why-What-How統合ブランドの世界観・パーソナリティ
対象マーケティング活動全体ブランドの本質的な存在
形式短い言葉(1-2行)ビジュアル+言葉+世界観
役割全施策の指針ブランド開発・運用の基盤
使用主体経営層・マーケティングチーム全部門(特にプロダクト・デザイン・企画)

マーケティングコンセプト → ブランドコンセプトボード

マーケティングコンセプトが「定められた指針」であれば、ブランドコンセプトボードはそれをさらに「深掘りし、ビジュアル化し、実装可能にしたもの」です。

ブランドコンセプトボード作成の実践ステップ

STEP

ブランドコンセプトの深掘り

Step4で定義した「マーケティング実施コンセプト」から始めます。例えば、「テクノロジーが、あなたの美を民主化する」というコンセプトなら。さらに深く問い直します。このコンセプトが生まれた背景は?顧客の人生において、このブランドがどのような役割を果たすのか?ブランドが表現したい「世界観」は?

STEP

ブランド個性の定義

このブランドを、「人」だったら、どんな人か、を具体的に描写します。例えば、「30代の知的でエレガントな女性」「親切で励ましてくれる友人」「革新的だがユーザーファースト」ブランド個性の定義が、ビジュアルやトーンの基盤になります。

STEP

ビジュアルイメージの定義

何色系がこのコンセプトとブランド個性を表現するか?どんな写真や絵のスタイル。リアル?アート?ミニマル?字体は堅い?やさしい?モダン?クラシック?

STEP

ターゲット顧客の具体化

「25歳、OL、都市部在住、自分磨きに関心が高い…」という具体像を描く。可能なら、実際の顧客をインタビューして、その人の実際のストーリーや言葉をコンセプトボードに含める。

STEP

ブランド体験シナリオの構築

「この顧客が、どのようなシーンでこのブランドと出会い、どのように変わるか」を、映画のシーンのように描写する。感情的な変化を含めることが重要です。

STEP

ビジュアルボードの制作

これまでの定義をまとめ、実際にビジュアルボードとして制作します。可能なら、A4またはA3サイズの一ページにまとめ、「一目でブランドコンセプトが伝わる」という完成度を目指します。

ブランドコンセプトボードの活用方法

全社共有ツール

作成したブランドコンセプトボードを、全社員に共有する。営業、企画、デザイン、開発、カスタマーサービスなど、全員が同じブランドイメージを持つことが重要。

外部パートナーとの共有

デザイナー、ライター、代理店、メーカーなど、外部のパートナーに仕事を依頼する際に、「このブランドコンセプトボードに基づいて、仕事をしてください」と指示できる。

プロダクト開発の指針

新しい商品やサービスを開発する際に、「このブランドコンセプトボードに合っているか」を確認する基準になります。例えば、「この商品の性能は、ブランド個性『洗練された』と合っているか?」「パッケージデザインは、ターゲット顧客に響くか?」といった観点で、開発の方向性を調整できます。

マーケティング施策の評価

「この広告は、ブランドコンセプトボードに一貫しているか?」「このキャッチコピーは、ブランド個性を表現しているか?」「このキャンペーンは、顧客に対する約束を果たしているか?」という評価基準になります。

第5章 アドオン最適化-すべての接点での顧客価値体験

「アドオン最適化」とは何か

アドオン最適化=「すべてのタッチポイント(接点)に、顧客価値体験を『上乗せ』し、統合された顧客体験を実現すること」ここで最も重要な考え方は、「すべての接点が、顧客価値コミュニケーションの媒体である」という考え方です。

初心者が陥る誤解「プロダクトは黒子」

多くのマーケティング初心者は、このような構図を想定しています

商品(プロダクト)≠マーケティング

「商品は商品。マーケティングは別」

「マーケティングは、広告とか営業とか、営業促進活動のことだ」

これは、大きな間違いです。

正しい理解「プロダクトも顧客価値コミュニケーション」

顧客価値体験は、あらゆるタッチポイントで形成される

商品そのもの、パッケージ、店舗、広告、カスタマーサービス…
全てが「顧客価値を伝える媒体」である

「商品」も「マーケティング」も、区別しない統合的な思考

顧客価値コミュニケーションが実現される場所

タッチポイント1 商品デザイン

商品のデザイン自体が、顧客に対して「価値」を伝えます。

顧客価値デザインで伝える方法
「高級感」ガラス瓶、重い、上質な雰囲気
「環境配慮」リサイクル可能な素材、シンプルなデザイン
「科学的な信頼」透明な液体が見える、成分を表示

商品デザイン自体が、「私たちは何を大切にしているのか」を顧客に教えます。

タッチポイント2 パッケージング

パッケージは、単に「商品を守るもの」ではなく、顧客体験の重要な一部です。

  • 開ける喜び:開け方が楽しい、中身が美しく見える
  • 運ぶ喜び:持っていて誇りを感じる、他人に見せたくなる見た目
  • 使う喜び:開封後も、ボトルの形が美しく、使いやすい

Apple が製品をパッケージングに投資する理由は、「パッケージングが、ブランド体験の一部」だと理解しているからです。

タッチポイント3 店舗体験

店舗の雰囲気、陳列方法、スタッフの対応…すべてが、顧客価値コミュニケーションです。

  • 百貨店の高級コーナー:豪華な背景、個別コンサルティング、白い手袋をした店員
    → 「高級」「特別」という価値を伝える
  • ドラッグストアの棚:商品が大量に並んでいる、セルフサービス
    → 「手軽」「親しみやすい」という価値を伝える

同じ商品でも、置かれ方で、顧客が感じる価値は全く異なります。

タッチポイント4 デジタル体験

ウェブサイトやアプリの操作感、ビジュアル、レスポンス速度…すべてが、顧客が感じる「ブランドの質」に影響します。

  • ウェブサイトが重い、複雑 → 「この企業、大丈夫?」という不信感
  • ウェブサイトが軽い、分かりやすい → 「きちんとしている」という安心感

タッチポイント5 カスタマーサービス

問い合わせ時の対応、返品・交換の対応…ここでのコミュニケーションが、顧客の「最終的なブランド評価」に大きな影響を与えます。なぜなら、問題が発生した時にどう対応されるかで、ブランドの「本当の姿」が見えるからです。

タッチポイント6:購後コミュニケーション

お礼メール、ロイヤリティプログラムの通知、新商品の紹介…これらが「顧客を大切にしている」という価値を伝えるか、それとも「売ったら後は知らない」という無関心を伝えるか。

「HOWは最後に考える」-優先順位の重要性

ここが、アドオン最適化で最も重要なポイントです。多くの企業は、このような順序で考えます

HOW(どうやって実現するか)→ WHAT(何をするか)→ BENEFIT(顧客価値は?)

「SNS広告がトレンドだから、SNS広告をやろう」
「Instagramが若い世代に人気だから、Instagramで情報発信しよう」
「でも、結果が出ない…」

なぜ結果が出ないか?「顧客価値」を無視して、「手段(HOW)」から入ってるからです。

BENEFIT(顧客にとって、どのような価値を提供したいか?)
→ WHAT(その価値を提供するために、何が必要か?)
→ HOW(それをどのように実現するか?)

例1:ファッションブランド

❌ 誤った順序:

  1. HOW:「YouTubeで動画配信しよう」
  2. WHAT:「商品紹介動画を作ろう」
  3. BENEFIT:「見てくれる人がいるといいな…」

✅ 正しい順序:

  1. BENEFIT:「忙しい女性が、『この服で、どんなコーディネートができるか』を、仕事の休み時間に簡単に知ることができたら、購買意欲が高まるはず」
  2. WHAT:「スタイリング提案が必要。でも、店舗に来なくても、いつでも見られるようにしたい」
  3. HOW:「YouTubeで、スタイリング動画を公開しよう」

例2:フィットネスアプリ

❌ 誤った順序:

  1. HOW:「SNS広告を出そう」
  2. WHAT:「商品のメリットをアピールしよう」
  3. BENEFIT:「ユーザー数が増えるといいな…」

✅ 正しい順序:

  1. BENEFIT:「忙しい社会人が、『毎日、わずかな時間で運動習慣が作れたら』という小さな成功体験を積み重ねることで、人生が変わる可能性がある」
  2. WHAT:「毎日3分で完結できるトレーニング、仲間とのコミュニティ、進捗を可視化する仕組みが必要」
  3. HOW:「SNS広告で『毎日3分で人生が変わる』というメッセージを伝えよう。実際のユーザーの成功事例も紹介しよう」

アドオン最適化の実装ステップ

ステップ1:顧客価値の明確化

「顧客にとって、最も大切な価値は何か」を、単語ベースで定義する。

  • 「安心」
  • 「成長」
  • 「自信」
  • 「つながり」
  • 「変化」
  • など

ステップ2:顧客価値が「感じられるポイント」を特定

その価値が、顧客の人生の中で、どのような場面で感じられるべきかを考える。

例えば、価値が「安心」なら

  • 購入前:「本当に大丈夫かな」という不安を払拭する情報
  • 購入時:「信頼できるサイトから購入している」という安心感
  • 使用時:「本当に効果がある」という安心感
  • 購後:「何か問題があった時も、きちんと対応してくれる」という安心感

ステップ3:各タッチポイントでの顧客価値コミュニケーション手法を設計

各タッチポイント(商品、パッケージ、店舗、デジタル、サービスなど)で、「その価値をどう伝えるか」を具体化する。

ステップ4:全タッチポイントでの一貫性確認

「すべてのタッチポイントが、同じメッセージを発信しているか」を確認する。

焼印のメタファーに戻ると、「すべての接点で、同じ焼印が押されているか」ということです。

第6章 すべてを統合する-ブランド全体像の完成

Step6で実現される状態

ここまでで学んだ4つの概念(焼印、4P・4C・7P、パーセプションフロー、アドオン最適化)を統合すると、以下のような状態が実現します:

状態1「ブランド焼印」の完成

  • ブランドのビジュアルアイデンティティ(色、フォント、イメージ)が統一されている
  • すべてのタッチポイントで、同じ焼印が押されている
  • 顧客が「どこでこのブランドに出会っても、同じブランドイメージを感じる」

状態2 顧客視点での価値設計の完成

  • 4Pの企業視点から、4Cの顧客視点へのシフト
  • 「何を売るか」ではなく「顧客にどのような価値を提供するか」という思考の転換
  • サービス業を視野に入れた7Pの完全活用

状態3 顧客認識形成プロセスの理解

  • パーセプションフローモデルを理解し、「各段階でのズレを防ぐ」という意識
  • 各タッチポイントでの顧客体験の質が、最終的なブランド評価に影響することの理解
  • 「一貫性」の価値の理解

状態4 ブランドコンセプトボードの完成

  • ブランドの世界観、パーソナリティ、約束が可視化されている
  • 全社員、全パートナーが同じブランドイメージを共有できる基盤

状態5 すべての接点での顧客価値体験

  • 商品、パッケージ、店舗、デジタル、サービス…すべてが、顧客価値を伝える媒体
  • HOWを最後に考える思考習慣
  • 「統合された顧客体験」の実現

Step6 完了後の全体像

Step6を完了すると、Step1~5で立てた「戦略」が、実際に「顧客が体験できる形」へと具体化されます。

  • Step1~3:「何を、誰に、どのような価値を提供するか」を決定
  • Step4:「それを実現する組織とマーケティングコンセプト」を構築
  • Step5:「目標」を設定
  • Step6:「顧客が実際に体験する形」へ具体化し、ブランド全体像を定義

Step7以降では、この Step6 で定義したブランド全体像(特にブランドコンセプトボードとアドオン最適化)に基づいて、具体的なマーケティング施策(クリエイティブ制作、メディア戦略、キャンペーン企画など)が展開されていきます。

よくある質問:「Step6で何が完成するのか」

Q:「Step6で、具体的には何が完成するのですか?」

A:

  1. ブランドコンセプトボード:ブランドの世界観、パーソナリティ、約束の一ページ化
  2. 4P・4C・7P の体系化:各マーケティング要素の具体化と顧客視点への転換
  3. パーセプションフロー理解:顧客認識形成プロセスの把握と各段階での施策設計
  4. ブランドガイドライン:全社員が従うべきブランド表現ルール
  5. 顧客体験マップ:各タッチポイントでの顧客価値コミュニケーション設計
  6. アドオン最適化フレームワーク:顧客価値の明確化と全タッチポイントへの配置
  7. プロダクト開発方針:「顧客価値」を中心とした商品・サービス開発指針

第7章 初心者が陥りやすい間違い

間違い1「ブランドとロゴを混同」

ブランド≠ロゴ。ロゴは、ブランドの視覚的シンボルに過ぎません。本当のブランドは、顧客の心に形成される価値観や信頼です。「ロゴを変えればブランドが変わる」という誤解を捨てる。ブランドは、すべての接点での一貫した体験によって、形成される。

間違い2「手法から入る」

「TikTok で動画配信しよう」「Instagramキャンペーンをしよう」…手段から考える企業が多い。必ず BENEFIT から考える。「顧客にとって、どのような価値が必要か」を最初に問う。

間違い3「パーセプションフローのズレに気づかない」

広告では高級感をアピールしているが、店舗はスーパーの普通の棚…こういうズレが生じている企業は多い。定期的に「全タッチポイントでの体験が一貫しているか」を監査する。

間違い4「顧客体験を軽視」

「商品が良ければ、売れるはず」という思い込み。商品も、パッケージも、店舗も、カスタマーサービスも、全て「顧客が感じるブランド」の一部だと理解する。

間違い5「アドオン最適化を、単なる装飾だと思う」

「パッケージを豪華にする」「店舗をおしゃれにする」という表面的な理解。アドオン最適化は、「顧客が感じるべき価値を、どのタッチポイントで、どう伝えるか」という戦略的な思考。

間違い6「マーケティングコンセプトとブランドコンセプトを混同」

マーケティングコンセプト(Step4)とブランドコンセプト(Step6)は異なる概念です。

  • マーケティングコンセプト:Why-What-Howを統合した、マーケティング活動全体の指針
  • ブランドコンセプト:ブランドの世界観、パーソナリティ、約束を包括した、ブランドの本質的な考え方

両者の違いを明確に理解し、それぞれの役割を果たさせる。


まとめ

Step6を完了すると、以下の状態が実現します。

1. ブランド焼印が完成している

すべてのタッチポイントで、同じブランドアイデンティティが表現されている。

2. 顧客視点でのマーケティング設計が完成している

企業視点の4Pから、顧客視点の4Cへシフト。さらにサービス視点の7Pも視野に入れている。

3. 顧客認識形成プロセスの理解が完成している

各タッチポイントでの体験が、顧客の最終的なブランド評価に影響することを理解し、一貫性を確保している。

4. ブランドコンセプトボードが完成している

ブランドの世界観、パーソナリティ、約束が、ビジュアルと言葉で一ページに統合されている。

5. 統合された顧客価値体験が設計されている

商品、パッケージ、店舗、デジタル、サービス…すべてのタッチポイントで、顧客価値を伝える戦略的な設計が完成している。

6. Step7 以降の具体的施策の指針が完成している

これからのクリエイティブ制作、メディア計画、キャンペーン企画は、すべてこの Step6 で定義したブランド全体像に基づいて展開されます。

ここまで進むと、シセイラボが提案する「創造性で資産を増やす」マーケティングは、理論から実行へ、戦略から体験へと、確実に進化していきます。

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