はじめに
ここまでのStep1~8で、私たちはマーケティング戦略の全ての基礎と認知戦略を構築してきました。
- Step1~3で市場分析、ターゲット定義、価値創造を進め
- Step4~6で組織整備、目標設定、ブランド全体像を構築し
- Step7で市場でのポジショニングを明確にし
- Step8でブランド認知戦略とコミュニケーション設計を完成させました
しかし、ここまで進んでも、最も切実な問題が残ります。
「顧客に『認知』されても、『購買』にどのようにつなげるのか?」
言い換えれば、「認知した顧客の『アクセス』をいかに設計し、『嗜好(好み)』をいかに定義して、『購買』から『継続的な成長』へと導くのか?」という問題です。Step8までは「顧客にブランドを知ってもらう」段階でした。Step9からは、いよいよ「顧客にブランドを『選んでもらい、何度も購買してもらう』段階に入ります。つまり、認知から収益化への転換です。
Step9では、この収益化のための、2つの重要な要素を学びます
- アクセス設計:どのようにして、顧客が最初の購買に至るか
- 嗜好定義:顧客がブランドをどのように好きになり、その好みを収益に変えるか
そして、さらに重要なのが、初回購買後の顧客ライフタイムバリュー(生涯価値)最大化です。これらを理解することで、あなたは「認知」を「継続的な収益」へと転換させる、完全なマーケティング・システムを構築できるようになります。
第1章 販売戦略の本質 – 認知から収益へ
Step9が重要な理由
多くの企業は、「ブランド認知が高ければ、顧客は自動的に購買してくれるはず」という勘違いをしています。
これは、大きな間違いです。認知の高さと、購買率の高さは、別問題です。例えば、あなたが「高級車メーカーA」をよく知っていても、その高級車を購買することはないでしょう。なぜなら、以下のような「購買抵抗」があるからです。
- 価格抵抗:「高すぎる、手が出ない」
- 知識抵抗:「本当に良いのか、よくわからない」
- リスク抵抗:「本当に購買して後悔しないだろうか」
- スイッチ抵抗:「今の車で満足しているし、乗り換えるのは面倒」
販売戦略の2つの役割
役割1:購買抵抗の除去(アクセス設計)
顧客が購買に至るまでの「障害」を、段階的に除去していくこと。例えば…
- 価格抵抗を除去:「無料トライアルから始めよう」
- 知識抵抗を除去:「1分でわかる」解説動画を提供
- リスク抵抗を除去:「30日間返金保証」を提供
- スイッチ抵抗を除去:「移行サポート」を無料提供
役割2:ブランド好意度の向上(嗜好定義)
顧客がブランドを「好きになる」ようにし、それが価格プレミアム(プレミアム価格を払う余裕)につながること。例えば…
- 品質の一貫性で好意が高まる → プレミアム価格を受け入れる
- ブランド体験が素晴らしい → より高い価格帯を購買する
- コミュニティ感がある → ロイヤリティが高まる
この2つの役割が相互作用して、初めて「高い購買転換率」が実現するのです。
Step1~8との関連性
ここまでで構築した要素が、Step9でいかに活かされるかを示します。
Step1-3(市場分析、ターゲット定義)
↓
「誰に」「何を」売るかが決まった
Step4-6(組織、ブランド構築)
↓
「どんなブランドで」売るかが決まった
Step7(ポジショニング)
↓
「市場での立場」と「USP」が決まった
Step8(認知・コミュニケーション)
↓
「顧客にブランドを知ってもらう」ことが実現した
Step9(販売戦略)→ ここから
「顧客をいかに購買に導き、継続的価値を生むか」を実現する
つまり、Step9は、ここまでのすべての投資を、「実際の収益」に転換する最も重要なステップなのです。
第2章 アクセス設計 – 購買抵抗の除去と市場浸透
市場浸透率(Market Penetration Rate)
市場浸透率=「ターゲット市場の中で、実際に我社の商品を購買している顧客の割合」例えば…
- ターゲット市場:日本国内の20~40代女性で、月1回以上コスメを購買している人 = 1000万人
- 現在の顧客:100万人
- 市場浸透率 = 100万÷1000万 = 10%
なぜ市場浸透率の把握が重要か
市場浸透率を知ることで、以下が明確になります
- 現在の立場:「市場全体で、我社はどのポジションにいるか」
- 成長機会:「あと何人の顧客を獲得できるか」
- 施策の優先順位:「既存顧客の深堀りか、新規獲得か」
カテゴリーエントリーポイント(Category Entry Points)
ここで最も重要な概念が、「カテゴリーエントリーポイント」です。
カテゴリーエントリーポイント=「新しい顧客が、最初に購買する商品・サービスのティアー(価格帯・機能レベル)」
例:SaaS(クラウドソフトウェア)サービスの場合
| ティアー | 価格 | ターゲット | 説明 |
|---|---|---|---|
| トライアル | 無料 | 新規ユーザー | 14日間無料で全機能を試用可能 |
| エッセンシャル | $29/月 | 個人・小規模企業 | 基本機能のみ、シンプルで使いやすい |
| プロフェッショナル | $99/月 | 成長中の企業 | 高度な機能、分析機能、サポート付き |
| エンタープライズ | カスタム | 大企業 | 完全カスタマイズ、専任サポート |
新規顧客は、いきなり「プロフェッショナル」を購買することはまれです。通常は、以下のような段階を踏みます
無料トライアル(リスク0で試す)
↓
「良かった」→ エッセンシャル購買
↓
「さらに高度な機能が必要」→ プロフェッショナル購買
↓
「社内に浸透」→ エンタープライズ購買
購買抵抗(Resistance Factors)の除去
最初のエントリーポイントで、顧客が感じる抵抗は何か?それをいかに除去するか?
抵抗1:価格抵抗(Price Resistance)
顧客の心理:「高いな…本当に価値があるのかな」
除去方法
- 無料トライアル:お金をかけずに試用できる安心感
- 段階的価格設定:最初は安い、後で上位プランへ
- 明確な価値提示:「このティアーなら月300時間の節約」と具体的に示す
- 返金保証:「満足しなければ30日以内に返金」
抵抗2:知識抵抗(Knowledge Resistance)
顧客の心理:「使い方がわからない、複雑そう」
除去方法
- シンプルなUIデザイン:直感的に使える
- オンボーディング動画:5分で理解できる入門ガイド
- チャットサポート:わからないことをすぐ聞ける
- FAQとベストプラクティス:よくある質問に事前に答える
抵抗3:リスク抵抗(Risk Resistance)
顧客の心理:「データが安全か?本当に機能するのか?」
除去方法
- セキュリティ認証:「ISO 27001認証済み」を表示
- ユーザーテスティモニアル:「実際に使ってる企業の声」を掲載
- 成功事例:「同業他社も使っていて、○○の成果が出た」
- トライアル期間の充実:「十分な期間で、本当の価値を確認できる」
抵抗4:スイッチ抵抗(Switching Resistance)
顧客の心理:「今使ってるサービスで満足してるし、乗り換えるのは面倒」
除去方法
- 移行サポート:データ移行を無料で代行
- 互換性:「既存システムとの連携が簡単」
- 比較表:「現在のサービスとの比較、乗り換えのメリット」
- 限定キャンペーン:「最初の3ヶ月50%オフ」
抵抗5:時間抵抗(Time Resistance)
顧客の心理:「忙しいし、セットアップに時間かけたくない」
除去方法
- ワンクリック登録:メールアドレスだけで開始可能
- クイックスタート:「5分で基本設定完了」
- 自動セットアップ:テンプレートを選ぶだけで完成
- 専任オンボーディング:企業向けなら担当者がセットアップ
市場浸透率向上の実践ステップ
ステップ1:現在の市場浸透率を正確に把握
- ターゲット市場の正確な規模を定義
- 現在の顧客数を集計
- 浸透率を計算
ステップ2:理想的なエントリーポイント構造を設計
- どのティアーに、どの顧客層を狙うか
- 各ティアーでの「転換率目標」
- ティアー間の「アップグレード率目標」
ステップ3:各ティアーでの抵抗要因を特定
- ターゲット顧客に、「何が購買の障害か」をインタビュー
- それぞれの抵抗要因のスコアリング
- 最大の抵抗が何かを特定
ステップ4:抵抗要因ごとの除去施策を設計
- 価格抵抗が高い → 無料トライアルを拡充
- 知識抵抗が高い → 教育コンテンツを充実
- リスク抵抗が高い → 返金保証やセキュリティ認証を前面に
ステップ5:施策を実装し、KPIを測定
- 実装後、各抵抗要因による「購買ハードル」が下がったか測定
- 浸透率の変化を追跡
- 継続的な改善
第3章 嗜好定義 – ブランド好意度、エクイティ、価格の統合
ブランド好意度(Brand Affinity)
ブランド好意度=「顧客が、そのブランドをどのくらい『好きか』という感情的な結びつきの度合い」好意度は、「客観的な品質」ではなく、「感情的な印象」です。
例えば、同じ機能・品質の2つのスマートフォンでも
- 一方は「Appleだから欲しい」→ 好意度が高い
- 他方は「聞いたことのないメーカー」→ 好意度が低い
という差が生まれます。
ブランド好意度の段階
| レベル | 好意度スコア | 顧客の心理 | 行動 | 価格耐性 |
|---|---|---|---|---|
| 献身的ロイヤリティ | ★★★★★ | 「これしか選ばない」 | 何度も購買、口コミ推奨 | 非常に高い |
| 強い嗜好 | ★★★★ | 「これが最高」 | リピート購買、切り替えなし | 高い |
| 肯定的感情 | ★★★ | 「これ、好きだな」 | 定期購買、代替品も検討 | 中程度 |
| 認知・検討 | ★★ | 「悪くないけど…」 | 価格次第で購買、よく比較 | 低い |
| 無関心/否定的 | ★ | 「特に何も」 | 購買しない、or 価格最優先 | 非常に低い |
ブランドエクイティ(Brand Equity)
ブランドエクイティ=「ブランド名そのものが持つ『無形資産価値』」
つまり、同じ商品でも、「ブランドA」という名がついているだけで、より高い価格で売れるということです。
ブランドエクイティの源
| 要素 | 説明 | 例 |
|---|---|---|
| ブランド認知 | どのくらい知られているか | 「Nike」は世界的に認知 |
| 知覚品質 | 顧客が感じる品質レベル | 「Rolex」=高品質の象徴 |
| ブランド・ロイヤリティ | 顧客がどのくらい忠実か | 「Apple信者」は多い |
| 独自の連想 | ブランドと結びついた価値 | 「Tesla」=革新、環境配慮 |
| 他の資産 | 特許、商標、流通ネットワークなど | 「Coca-Cola」の流通網 |
価格戦略(Pricing Strategy)への反映
ブランド好意度とブランドエクイティが、価格にどう影響するかを示します。
シナリオ1:高い好意度 + 高いエクイティ
結果:プレミアム価格を設定可能
例:Apple iPhone
- ほぼ同等の機能を持つスマートフォンは、Androidで$300で買える
- しかし、iPhoneは$1000+で売れる
- 理由:高いブランド好意度 × 高いブランドエクイティ
価格戦略:「価値ベース価格」=顧客が感じる価値に基づいて価格設定
シナリオ2:高い好意度 + 低いエクイティ
結果:「最高のコスパ」ポジショニング
例:IKEA(北欧デザイン × 手頃な価格)
- 「スタイリッシュで、手頃」という独自ポジショニング
- ブランド好意度は高い(デザインや価値観への共感)
- でも、完全に高級ではない(よくあるイメージ)
- 結果:好意度を活かしつつ、ボリューム重視の価格
価格戦略:「バリュー・プレミアム価格」=競合より高いが、プレミアムほどではない
シナリオ3:低い好意度 + 低いエクイティ
結果:価格競争に巻き込まれる(危険)
例:聞いたことのない新興ブランド
- ブランドへの愛着がない
- ブランド名による信頼もない
- 結果:「安いから購買」という最も厳しい状況
価格戦略:「コスト・リーダーシップ」=業界で最安価格を目指す
この状況は、非常に利益率が低く、競争に勝つのが難しいため、ブランド好意度・エクイティの構築に投資すべきです。
シナリオ4:低い好意度 + 高いエクイティ
結果:「危険ゾーン」=持続不可能
例:レピュテーション危機に直面した老舗ブランド
- ブランド名は知られている(かつての栄光)
- でも、顧客感情が悪い(スキャンダル、品質低下など)
- 結果:値下げしても売れないジレンマ
対応策:緊急のブランド修復活動 OR ブランドリポジショニング
ブランド好意度の構築方法
方法1:一貫した品質提供
ブランドへの好意は、「期待を超えた体験」の積み重ねから生まれます。
- 毎回「期待通り」では好意は高まらない
- 「期待を超える」ことが、好意につながる
方法2:感情的な結びつきの創造
顧客の「理性」ではなく「感情」に訴えることが重要です。
- 「これを使う私は、こういう人」というアイデンティティの形成
- 「このブランドを応援したい」というコミュニティ感
- 「この企業の理念に共感」という価値観の一致
方法3:顧客体験全体の最適化
単なる「商品」だけでなく、すべての接点で好意を高めることが重要。
- パッケージング:「開封時の驚き」
- カスタマーサービス:「問題を解決してくれる親切さ」
- コミュニティ:「同じ好みの人と繋がる」
- 後続対応:「購買後も大切にされている感」
第4章 顧客ライフタイムバリュー最大化 – CRM、リテンション、アップセル、クロスセル、バンドル、ダウンセル
初回購買後の収益最大化
ここで重要な認識の転換があります。多くの企業は、「最初の購買を取ることが最も大事」と考えています。
これは、大きな間違いです。
実際には、「初回購買後の顧客から得られる生涯利益が、全体の80%以上を占める」ことが多いのです。
CRM(顧客関係管理)の基盤
CRM=Customer Relationship Management=「顧客との関係を、体系的に管理・最適化し、長期的な価値を生み出すシステム・プロセス」
CRMの3つのレイヤー
レイヤー1:データ統合
複数の接点(購買履歴、ウェブ閲覧、カスタマーサービス、SNS)から得た顧客情報を、一つの「顧客ビュー」に統合すること。
利点
- 同じ顧客が、複数回購買している場合、一人として認識できる
- その顧客の全体像(購買パターン、好み、ニーズ)が見える
- それに基づいた「個別のアプローチ」が可能
レイヤー2:セグメンテーション & パーソナライゼーション
統合されたデータを基に、顧客を「似た特性を持つグループ」に分け、各グループに合わせた対応をすること。
| セグメント | 特徴 | アプローチ |
|---|---|---|
| ハイバリュー顧客 | 購買額が大きい | VIP対応、専任サポート |
| 成長中顧客 | 購買頻度が増えている | アップセル・クロスセル提案 |
| 解約リスク顧客 | 最近購買がない | 復帰キャンペーン、特別オファー |
| 新規顧客 | 初回購買後3ヶ月未満 | オンボーディング、早期サポート |
レイヤー3:リテンションプログラム & エンゲージメント
各セグメントに対して、「関係を続けさせ、深める」ための施策を実行すること。
- ロイヤリティプログラム:「購買ごとにポイント加算」
- 限定オファー:「VIP顧客向けの先行販売」
- コミュニティ建設:「顧客同士が交流できる場」
- プロアクティブサポート:「顧客が問題を感じる前に、手を打つ」
リテンションマーケティング(顧客維持戦略)
リテンション=「既存顧客との関係を継続・深化させ、繰り返し購買を促進すること」
リテンション率の計算
リテンション率 = (期間終了時の顧客数 - 新規顧客数) ÷ 期間開始時の顧客数 × 100%
例:
1月1日時点:顧客1000人
3月31日時点:顧客1200人(うち新規顧客300人)
リテンション率 = (1200 - 300) ÷ 1000 × 100% = 90%
→ 既存顧客の90%が継続している(10%が解約)
なぜリテンション率が重要か
研究によると、既存顧客から1単位の売上を得るコストは、新規顧客から1単位の売上を得るコストの5~25倍低いとされています。つまり、「新規顧客獲得」より「既存顧客維持」の方が、圧倒的に効率的なのです。
4つの収益拡大戦略
初回購買後、顧客から得られる収益を最大化する4つの戦略があります。
戦略1:アップセル(Upsell)
定義:より高価な、より機能豊富な商品へのグレードアップを促す
タイミング:初回購買後、顧客が満足した後
- SaaS:「Basic」から「Pro」へアップグレード提案
- 美容品:「ドライシャンプー」から「スペシャルケアセット」への提案
- 食事:「標準セット」から「プレミアムセット」への提案
重要なポイント
- 顧客が既に基本商品で価値を感じている状態が前提
- 「さらなる価値を得られる」ことを明確に示すこと
- 強引になってはいけない
成功指標:アップセル転換率が5~15%程度が目安
戦略2:クロスセル(Cross-sell)
定義:関連・補完する別カテゴリーの商品を提案する
タイミング:購買時、購買後のフォローアップ時
- Aさんが美容液を購買 → 乳液も一緒に購買
- Bさんが楽器を購買 → チューナーや弦も提案
- Cさんが会計ソフトを購買 → 請求書テンプレート も提案
重要なポイント
- 顧客の「他のニーズ」を理解していることが前提
- 「これを使ってる人は、普通これも必要」という自然さ
- 購買データを基に、個別提案することが効果的
成功指標:クロスセル率(購買者の何%が関連商品も購買するか)が10~30%程度が目安
戦略3:バンドル(Bundle)
定義:複数の商品・サービスを「セット」として販売する
パターン
- ボリュームバンドル:「3個セットで、1個は割引」
- クロスカテゴリーバンドル:「基礎化粧品セット」(化粧水+乳液+美容液+クリーム)
- 季節バンドル:「秋の新作セット」
- ソリューションバンドル:「〇〇の課題を解決するための一式」
効果
- 顧客視点:「個別購買より得」と感じる
- 企業視点:実は利益率が向上(個別販売より売上が増える)
重要なポイント
- バンドルの構成に納得性があることが重要
- 「お得」と感じるプライシングが必須
- 複雑すぎないシンプルさ
戦略4:ダウンセル(Downsell)
定義:より低価格なオプションを提案し、顧客流出を防ぐ戦略
使用局面
- 顧客が「解約を考えている」時
- 顧客が「価格が高すぎると感じている」時
- 顧客が「より少ない機能で十分」と気づいた時
例
- 月額$99の「Pro」を使ってた顧客 → 「でも使ってない機能が多い」と判明 → 月額$29の「Essentials」へダウングレード提案
重要なポイント
- 「顧客を失わない」ことが目的(利益最大化ではなく、関係維持)
- 完全な解約より、ダウングレードの方が、復帰可能性がある
- 「今のニーズに合ったプラン」という前向きな提案が大切
顧客ライフサイクル別戦略
顧客の「関係の深さ」により、アプローチを変える必要があります。
ステージ1:新規顧客(0~3ヶ月)
目標:「満足」と「成功」を素早く実感させる
戦略
- 徹底したオンボーディング
- 早期サポート(何か問題があればすぐ対応)
- クイックウィン(小さな成功体験)の提供
アップセル/クロスセル:控えめに。まずは満足度が最優先
例
- SaaS:初回ログイン時に「セットアップガイド」を提示
- 美容品:1週間後に「使用方法のコツ」をメール送信
- 金融:契約後のアフターサポート電話で「安心」を提供
ステージ2:成長中顧客(3~12ヶ月)
目標:「深い利用」と「複数機能の活用」を促進
戦略
- 段階的な教育提供
- ベストプラクティスの紹介
- コミュニティへの参加促進
アップセル/クロスセル:積極的に。顧客が「より多くの価値を得たい」フェーズ
例
- SaaS:「Advanced機能のチュートリアル」を提供 → 「Pro プランへのアップグレード」提案
- 美容品:「スペシャルケアの方法」をSNSで発信 → 「スペシャルケアセット」を提案
ステージ3:成熟顧客(12ヶ月以上)
目標:「ロイヤリティ最大化」と「生涯価値向上」
戦略
- VIP対応、プレミアムサービス
- 専任サポート
- 独占的なアクセス(新機能の先行体験など)
アップセル/クロスセル:自然に。顧客が自分から「次を」求める段階
例
- SaaS:「エンタープライズプランの提案」「コンサルティングサービス」の提供
- 美容品:「ブランドアンバサダープログラム」への招待
ステージ4:リスク顧客(利用減、関心低下が見られる)
目標:「流出を防ぐ」「ダウングレードで関係維持」
戦略
- 即座の対話:「何が問題か」を探る
- 特別オファー:「戻ってきてほしい」というメッセージ
- ダウンセル:「今のプランより安いオプション」の提案
例
- SaaS:「使用頻度が減った」顧客へ → 「必要な機能だけの低価格プラン」提案
- 金融:「5年使ってくれた顧客が、解約申請」 → 「手数料割引キャンペーン」で引き止め
CRM実装の実践ステップ
ステップ1:顧客データの統合
- 購買システム、ウェブアナリティクス、CRMツール、メール配信システムからデータ抽出
- 顧客ID(メールアドレスなど)をキーに、統合
- 単一の「顧客マスタ」を構築
ステップ2:セグメンテーション定義
- 購買額、購買頻度、最後の購買日、商品カテゴリ好みなどで分類
- 各セグメントの特性を把握
- ターゲットごとのKPI設定
ステップ3:リテンションプログラム設計
- 各セグメントに対して「何をするか」を決定
- メール・SMS・アプリ通知など、接点の決定
- 頻度(週1回、月1回など)の決定
ステップ4:アップセル/クロスセル機会の特定
- 購買パターン分析:「〇〇を買った人は、通常△△も買っている」を特定
- タイミング特定:「購買後△日後が、最も受容性が高い」を特定
- メッセージ開発:「個別顧客に対して、何を提案するか」
ステップ5:KPI測定と改善
- リテンション率、アップセル転換率、LTV(生涯価値)を測定
- 施策の効果検証
- 継続的な改善
まとめ:Step9からの収益化戦略
Step9は、「戦略の理想」を「市場での現実的な利益」に転換する、最も重要なステップです。
- アクセス設計を通じて、購買抵抗を除去し、市場浸透率を高める
- 嗜好定義を通じて、ブランド好意度を高め、プレミアム価格化を可能にする
- CRM・リテンション施策を通じて、初回購買後の生涯価値を最大化する
これら3つが統合されるとき、初めて、「認知から販売、そして継続的な成長」という完全なマーケティング・システムが実現するのです。
Step10以降では、この販売戦略に基づいて、実際の以下が実行されます:
- キャンペーン実行
- データ分析と最適化
- 顧客体験の継続的改善
シセイラボが提案する「創造性で資産を増やす」マーケティングは、ここから、「継続的な成長のエンジン」として機能し始めるのです。
